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最高裁判所第一小法廷 平成5(オ)1211 判決

主 文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理 由

上告代理人宇都宮健児、同今瞭美、同山本政明、同茨木茂、同釜井英法、同米倉

勉の上告理由第二ないし第五について

一 本件は、上告人が、株式会社D(以下「D」という。)から提起された訴訟

において、訴状等の書留郵便に付する送達(以下「付郵便送達」という。)が違法

無効であったため訴訟に関与する機会が与えられないまま上告人敗訴の判決が確定

し、損害を被ったとして、被上告人に対し、国家賠償法一条一項に基づき、損害賠

償を求めるものである。上告人は、右訴訟における上告人への付郵便送達について、

受訴裁判所の裁判所書記官には付郵便送達の要件の認定及びその実施に過失があり、

担当裁判官にもこれを看過した過失がある旨主張している。

二 原審の適法に確定した事実関係は、次のとおりである。

1 Dは、昭和六一年三月、上告人に対し、上告人の妻が同社発行の上告人名義

のクレジットカードを利用したことによる貸金の残金二六万五三一二円等及び立替

金の残金七万九六五二円等の支払を求めて、札幌簡易裁判所に貸金請求訴訟及び立

替金請求訴訟をそれぞれ提起した。受訴裁判所の担当各裁判所書記官は、上告人の

住所における訴状等の送達が上告人不在によりできなかったため、Dに対し、訴状

記載の住所に上告人が居住しているか否か及び上告人の就業場所等につき調査の上

回答するよう求める照会書を送付した。

2 その当時、上告人は、釧路市内の株式会社E交通釧路営業所に勤務していた

が、たまたま昭和六一年一月から東京都内に長期出張をして、右勤務先会社が下請

をした業務に従事中であり、同年四月二〇日ころ帰ってくる予定であった。右勤務

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先会社においては、出張中の社員あての郵便物が同社に送付されたときは社員の出

張先に転送し、出張中の社員と連絡を取りたいとの申出があったときは連絡先を伝

える手はずをとっていた。また、上告人は、昭和六〇年一一月ころ、Dから右勤務

先会社気付で上告人あてに郵送された支払督促の通知書を同営業所長を介して受領

したことがあり、上告人との交渉に当たっていたDの担当者に対し、上告人あての

郵便物は自宅ではなく右勤務先会社に送付してほしい旨要望していた。

3 しかし、Dの担当者は、裁判所からの前記照会に際し、裁判所から回答を求

められている上告人の就業場所とは、上告人が現実に仕事に従事している場所をい

うとの理解の下に、昭和六〇年一一月当時に上告人から稼働場所として伝えられて

いたFセメントに問い合わせ、上告人が現在本州方面に出張中で昭和六一年四月二

〇日ころ帰ってくる旨の回答を受けただけで、更に右勤務先会社に上告人の出張先

や連絡方法等を確認するなどの調査をすることなく、貸金請求事件については、同

月一一日、上告人が訴状記載の住所に居住している旨及び上告人の就業場所が不明

である旨を記載した上、「本人は出張で四月二〇日帰ってきます。家族は訴状記載

の住所にいる。」旨を付記して回答し、立替金請求事件については、同月一八日、

上告人が訴状記載の住所に居住している旨及び上告人の就業場所が不明である旨を

記載して回答した。

4 受訴裁判所の担当各裁判所書記官は、いずれも、右各回答に基づき、上告人

の就業場所が不明であると判断し、上告人の住所あてに各事件の訴状等の付郵便送

達を実施した。右送達書類は、いずれも上告人不在のため配達できず、郵便局に保

管され、留置期間の経過により裁判所に還付された。なお、右付郵便送達は、札幌

簡易裁判所の昭和五八年四月二一日付け「民事第一審訴訟の送達事務処理に関する

裁判官・書記官との申し合わせ協議結果」による一般的取扱いに従って実施された

ものである。

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5 右訴訟事件の各第一回口頭弁論期日では、いずれも上告人が欠席したまま弁

論が終結され、昭和六一年五月下旬、上告人において請求原因事実を自白したもの

として、Dの請求を認容する旨の各判決が言い渡された。右各判決正本は、同年五

月末から六月初めにかけて、それぞれ上告人の住所に送達され、上告人の妻が受領

したが、これを上告人に手渡さなかったため、上告人において控訴することなく、

右各判決は確定した。

6 Dは、昭和六一年七月二二日、釧路地方裁判所に対し、貸金請求事件の確定

判決を債務名義として上告人に対する給料債権差押命令の申立てをしたが、同月二

七日、右申立てを取り下げた。上告人は、同社に対し、同月二九日に二〇万円、同

年一〇月から昭和六二年四月にかけて計八万円の合計二八万円を支払った。

三 民事訴訟関係書類の送達事務は、受訴裁判所の裁判所書記官の固有の職務権

限に属し、裁判所書記官は、原則として、その担当事件における送達事務を民訴法

の規定に従い独立して行う権限を有するものである。受送達者の就業場所の認定に

必要な資料の収集については、担当裁判所書記官の裁量にゆだねられているのであ

って、担当裁判所書記官としては、相当と認められる方法により収集した認定資料

に基づいて、就業場所の存否につき判断すれば足りる。担当裁判所書記官が、受送

達者の就業場所が不明であると判断して付郵便送達を実施した場合には、受送達者

の就業場所の存在が事後に判明したときであっても、その認定資料の収集につき裁

量権の範囲を逸脱し、あるいはこれに基づく判断が合理性を欠くなどの事情がない

限り、右付郵便送達は適法であると解するのが相当である。

これを本件についてみるに、前記事実関係によれば、受訴裁判所の担当各裁判所

書記官は、上告人の住所における送達ができなかったため、当時の札幌簡易裁判所

における送達事務の一般的取扱いにのっとって、当該事件の原告であるDに対して

上告人の住所への居住の有無及びその就業場所等につき照会をした上、その回答に

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基づき、いずれも上告人の就業場所が不明であると判断して、本来の送達場所であ

る上告人の住所あてに訴状等の付郵便送達を実施したものであり、Dからの回答書

の記載内容等にも格別疑念を抱かせるものは認められないから、認定資料の収集に

つき裁量権の範囲を逸脱し、あるいはこれに基づく判断が合理性を欠くものとはい

えず、右付郵便送達は適法というべきである。�

四 したがって、上告人の被上告人に対する国家賠償法一条一項に基づく本件損

害賠償請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がないことは明らかで

あり、上告人の右請求を棄却すべきものとした原審の判断は、結論において是認す

ることができる。論旨は採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 小 野 幹 雄

裁判官 遠 藤 光 男

裁判官 井 嶋 一 友

裁判官 藤 井 正 雄

裁判官 大 出 峻 郎

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