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最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)329号 判決 1948年7月15日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人八木政雄辯護人平岡清国の上告趣意について。

しかし、原判決によれば、原審の確定した事実は、被告人八木政雄は、昭和二〇年一二月二〇日頃から翌二一年七月八日頃までの間に、相被告人山本正象から同人が僞造した山本甚作外四名を受配者とする特別飯米購入票五枚を貰い受け、その都度五回に亘って、自己の勤務する直江津配給所にこれを差出し、本來特別飯米購入票によってはそれに受配者として記入されているものでなければ、その配給を受け得ないものであるに拘わらず恰も自身配給を受け得るものゝように装って同配給所の係員をしてその旨誤信させて同配給所から精米合計三〇一瓩餘を受取って騙取したというのである。

それ故右判示被告人の所爲が刑法第二四六條第一項の詐欺罪を構成するものであることは多言を要せずして明らかである。記録によれば本件詐欺罪と牽連關係あるものとして起訴せられた僞造公文書行使罪について、第一審で無罪の言渡があったことは論旨の指摘する通りであるが、それは唯被告人が相被告人山本から貰い受けた特別飯米購入票の僞造されたものであることを認識していたという點について第一審裁判所が確乎たる心證を得られなかったために過ぎないのであって、この一事は、被告人が本來特別配給を受ける資格のないにも拘わらず、欺罔手段を弄して直江津配給所の係員を誤信させて特配米名義の下に精米合計三〇一瓩餘を騙取したという事実には何等消長を來たすべき筋合ではない。

又、論旨は、原審がその事実認定の資料とした被告人の原審公判廷における供述には前後矛盾するところがあるので、かゝる供述を證據とした原判決には理由齟齬の違法があると主張するのであるが、所論公判調書の記載を通讀すれば、被告人は結局判示と同旨の供述を爲すに至ったことを認め得るのであって、原判決には、固より所論のような違法はなく、しかも原判決擧示の證據を総合すれば、原審の事実認定はこれを肯認し得るのであるから、この點に關する論旨は畢竟事実審である原審の裁量権の範圍でなされた正當な事実認定を非難するに歸着する。

最後に論旨は本件被告人の所爲は詐欺罪を構成せず食糧緊急措置令第一〇條本文を以て律すべきものであるというのである。しかし被告人の本件所爲が刑法第二四六條第一項の詐欺罪を構成するものであることは、前説示の通りであって、たとえ一面右措置令第一〇條本文所定の一場合にも該當するとしても、同條の末尾には「其ノ刑法ニ正條アルモノハ刑法ニ依ル」と明規されているのであるから、原審が前示刑法詐欺罪の規定を適用し所斷したのは正當であって、原判決には何等の違法もない。論旨は理由ないものである。(その他の判決理由は省略する。)

なお、被告人八木政雄辯護人平岡清国の上告趣意書擴張辯明書は上告趣意書提出期間經過後の提出に係るから同書面記載の論旨については説明を與えない。

よって刑訴第四四六條に從い主文の通り判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔)

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