最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)476号 判決 1948年8月05日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人伊東長一郎上告趣意について。
しかし、本件のようないわゆる強制辯護事件については、辯護人なくして開廷できないものであり、また辯護人が出頭しないとき若しくは辯護人の選任がないときは、裁判長は職權を以て辯護人を附すべきものである。一件記録に徴して明らかなように、所論官選辯護人辻本幸臣は原審第二回公判期日に出頭しなかったため、原審の裁判長は、辯護士安藤真一を官選辯護人に選任して同日の公判を開廷し、同辯護士はこれを受諾して審理に立會い、滯りなく辯護を終了したものである。當日の開廷及び審理について、被告人又は辯護人から進行に關し別段異議の申立があった譯でもなく又辯論準備のため延期又は續行の申出があったというのでもない。從って、所論のように、辯護人安藤真一をして記録を精讀する機會を與えなかったとしても、辯護權の行使を制限した等の不法があると言うことはできない。なお、前記安藤辯護人は、第一審以來本件相被告人長尾益夫の辯護人であった關係上既に本件に精通していたものと認められるから、滯りなく辯論を終了したものと思われる。論旨はそれゆえに理由がない。
よって刑訴第四四六條により主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)