最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)792号 判決 1948年11月18日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人吉野和喜與上告趣意第二點について。
窃盗罪における被害物件の判示としては、窃取された財物の何たるかを明らかにすれば、十分なのであって、これを具體的に確定する外その價格までも認定しなければならぬものではない。原判決は被告人の窃取した財物が源野平治郎保管にかかる国有綿チーズ一三六個であることを認定しているのであって、被害物件の判示として何等缺くるところはない。しかも右の事実認定は原判決擧示の證據に照らしこれを肯認するに難くないのである。假りに所論のように右物件の價格の點に關し原判決引用の證據と相抵觸する證據が原審公判にあらわれていたとしても、證據の取捨は事実審である原審の自由裁量權の範圍に屬すところであるのみならず、價格の點は案件の判斷に必ずしも必要なる事項ではないのであるから、原判決に所論のような違法があるとはいい得ない。論旨は採用に値しないのである。(その他の判決理由は省略する。)
よって刑訴第四四六條に從い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 齋藤悠輔)