最高裁判所第一小法廷 昭和23年(れ)901号 判決 1948年8月09日
主文
本件上告を棄却する。
理由
辯護人河和金作上告趣意第二點について。
しかし、判示日本翼賛壮年團科野村支部團長に就任した事実は、実際上正式にその地位にあったか否かにより決定すべく所論のごとく内申書及び辭令の有無等專らその任命形式のみによらねばならぬものではない。そして記録によれば、原審においては任命手續は勿論その他諸般の事項につき多數の證人を數回に亘り詳細に取調べ、その上判決において被告人が判示期間判示團長の地位にあった事実を判示し、その擧示の證據によりこれを認めた理由を説示したものであるから、所論經歴に關する審理判斷において缺くるところはない。それ故、原審が任命の形式手續に關し審理を爲さない趣旨の論旨及びこれを判決中に明示してその證據理由をも示さないのは判斷遺脱なりとする所論は到底これを採ることができない。
同第三點について。
しかし、原判決が證據として採用した所論原審第四回公判調書(記録二四五丁裏乃至二六〇丁)中における證人轟英一郎の供述記載はその供述記載で明らかなように、長野縣翼賛壮年團の幹事たりし同人が同團の團史編纂の希望を以て所持していた同團の關係書類を調査実驗した事実に因り推測した事項を供述したもので單なる意見若しくは根據なき想像ではない。そしてかゝる供述は證言たるの効力を妨げられるものでないこと刑訴第二〇六條の規定に照し明白であるから、原判決には所論のごとき採證の法則に違背した違法はない。論旨はその理由がない。(その他の判決理由は省略する。)
よって刑訴第四四六條に則り主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)