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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)1003号 判決 1949年8月18日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人両名弁護人吉岡秀四郎上告趣意第一点について。

被告人林田茂は原裁判所で審理を受けた当時は十八歳に達しない者であるから、少年法第二條第六八條の少年に該当し同法第五〇條によって同被告人に対する刑事事件の審理には同法第九條の規定が適用される筋合であることは所論のとおりである。しかし同條の規定は所定の事項の調査の方針を示したもので、裁判所が自ら専門的知識を活用してこれを行うと他の専門家に命じて行わせると公判審理において調査すると記録について調査するとを問わないばかりでなくその規定中「なるべく」とか「努めなければならない」とかの文句の存するところから見ても、裁判官に対する事件処理上の訓示的な規定と解するのが相当である。されば、具体的事件の審理に当ってその調査の範囲、方法等をいかにするかは一に裁判官の良識とその妥当な裁量に一任されているものといわなければならない。從ってよしや専門家に命じて又は公判手続において調査をしなかったとしても、これをもって違法であるということはできない。又裁判官が適当な裁量によって特に他人の専門的智識を活用して調査をする必要がないと決した場合においてもその理由を一々判決その他記録中に明示すべき法令上の義務は存在しないからこれを判決又は記録中に明示しなかったからといってその審理を違法のものとなすを得ない。そこで本件について見るに、原審が公判廷における直接訊問の方法によって明にし得た被告人の生い立ち、家族の関係、資産教育の程度、職歴、生活状況、原審相被告人等と知り合った経緯、本件犯行の動機、犯行後の心境、及び本件記録によって明らかな被告人が本件犯行の僅々四〇日前である昭和二三年七月八日窃盗罪を犯したかどによって保護処分に附せられていた者であり、当時被告人の兄は窃盗罪に問われ三年の懲役に服役中のものであること等の事実に照らしそれ以上特に専門的智識を活用して調査をなさなければ審理の満足をえられないものではないと原審が判断したことは首肯されるところである。その他原審の審理が違法のものであると断ずべき資料は全記録を通して発見することができないのである。所論は独自の厳格な見解に基き原審の自由裁量を非難するものに過ぎないから採ることができない。

同第二点について

少年法第四九條第二項の規定は、少年に対する被告事件においては他の被告事件と併合して審理するときは他の被告人から悪い影響感化を受け又は事実の真相を陳述し得ない等の弊害を除去する法意にいでたものであることは所論のとおりであるが、少年と共犯関係にある事案の審理を分離して審理するために却って事案の真相を明らかにすることができない場合のおこりうることは想像に難くないところであるから、同條の規定には「審理に妨げない限り」という制限を設けているのであって、少年に対する被告事件はこれを絶対に他の被告事件と併合して審理することを禁止してはいないのである。從って、具体的事件の審理にあたって、少年に対する被告事件と他の被告事件とを分離して審理しても審理の妨げとなるか否かの判断は事実承審官の良識に信任してその裁量に委したものと解するのが相当である。そして本件では被告人林田茂と原審相被告人佐藤輝夫とが共同して犯した強盗の所爲とこれを幇助した被告人実平昭二、原審相被告人槌井甚一の各所爲との間には頗る密接微妙な関係があり、しかも同人等はいづれも第一審及び原審において被告人林田等の強盗の所爲を幇助した事実を否認しているいきさつもあるのであるから、被告人林田茂に対する被告事件を他の者に対する被告事件と分離しては事案の真相を把握し諸般の情状を明確にする妨げとなるものと認めて原審は被告人林田茂に対する被告事件を他の者に対する被告事件と併合して審理したものであることが容易にうなずかれ、この点に関する原審のした裁量については反経驗則その他の違法は存在しないから、原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって旧刑訴四四六條に從い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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