最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)2506号 判決 1950年2月16日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
各被告人弁護人長谷川寧上告趣意について。
新刑訴における上告の申立は、刑訴四〇五条に規定する事由があることを理由とするときに限りなすことができるものであって、同四一一条は、職権による原判決破棄の事由を定めたに止り上告申立の理由を規定したものでないことは当裁判所大法廷の確立した判例である。従って、量刑不当を上告理由と為し得ないことは新刑訴と刑訴応急措置法一三条二項との間に何等の差異がないばかりでなく新刑訴における上告申立事由は、旧刑訴及び刑訴応急措置法のそれに比し狭く制限されているのである。されば、所論は既にその前提において首肯し難い。元来、上告理由又は上告審における審理方法を如何に規定するかは、憲法第八一の場合を除き、すべて立法政策上の当否の問題であって憲法上の適否の問題でないことは既に所論引用の当裁判所大法廷判決の趣旨とするところであるばかりでなく、新刑訴実施に当り刑事訴訟法施行法第二条において「新法施行前に公訴の提起があった事件については新法施行後も、なお旧法及び応急措置法による。」と規定して本件のごとき旧法事件については何人に対しても等しく旧法及び応急措置法を適用するのであって、個人的理由により差別待遇はなされていない。論旨は、それ故に、採ることができない。
同弁護人伊沢庚子郎上告趣意第一点について。
しかし、原判決の挙げている証拠によれば被告人両名は共謀の上原判決の認定している第二の窃盗を為した判示事実を肯認することができる。所論は、独自の見解に基き、原審の裁量に属する証拠の判断を非難するに過ぎないから採ることができない。
同第二点について。
原審における所論弁護人の選任届に年月日の記載のないことは所論のとおりである。しかし、かかる年月日の記載がないからといってそれだけでこれを無効とすべき理由はない。そして、原審第一回公判期日に出廷して弁論その他の訴訟行為を為した樫田忠美が被告人等の弁護人であったことは、右の公判調書並びに弁護届によって明白であるから、原審の審理手続には所論の違法は認められない。右選任届が右公判調書の後に編綴されている一事を以って右公判期日後の選任だと推断することは随意であるが採用し難い。
よって旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅)