大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)2749号 判決 1950年4月13日

主文

本件各上告を棄却する。

理由

被告人石井勇弁護人戸毛亮蔵上告趣意第一点について。

所論食糧緊急措置令が昭和二一年二月一七日旧憲法第八条に基いて制定された緊急勅令であることは所論のとおりである。されば右措置令は法律に代わるべきものであり、そしてその後適法に帝国議会(昭和二一年八月二七日に衆議院、同年九月一七日に貴族院)の承諾を経たのであるから将来に向っても法律と同一の効力を失うものでないことは多言を要しない。それ故同令は所謂昭和二二年法律七二号一条にいわゆる「日本国憲法施行の際現に効力を有する命令」にあたるものではなく従って昭和二二年一二月三一日を限り失効するものではないと解するを相当とする。されば原審が所論措置令一〇条の規定を適用して被告人を処断したからといって、原判決には所論のような無効の法令を適用した違法は存しない。論旨は理由がない。

同第二点について。

しかし、所論宇陀郡に対する事前割当とは、同郡内の各市区町村部落内の主要食糧の生産者全体に対する事前割当の趣旨であること明らかであり、そして、原判決の認定したところによれば、判示収賄者は、食糧管理法施行規則第一条により地方長官の補助者としてかかる割当につき職務権限を有すること明白であるから、原判決には所論の違法は存しない。

被告人石井勇弁護人吉村泰蔵上告趣意第一点について。

所論原判決の判示の(一)の(い)事実として判示するところは、食糧緊急措置令一〇条にいわゆる不正の手段により他人をして主要食糧の配給を受けしめた事実を判示したものであること明白であって、その判示として欠くるところがないから、所論は採ることができない。

同第二点について。

所論の食糧管理法及び食糧緊急措置令各違反事件の第一審第二回公判調書中に論旨摘録のような供述記載のあることは所論のとおりである。しかし右公判調書中のその余の被告人の供述記載と検察事務官の小西秀太郎に対する聴取書謄本中の供述記載を総合すれば小西秀太郎において大国谷四郎が発行した特配傳票によって一応判示数量の玄米を判示配給所から配給を受け、これを昭和二二年度供出未納米分として供出する手続を省き配給米に対する代金から供出米に対する代金を差引いた残額を現金で小西秀太郎において支払って配給の玄米一石五斗を直ちに供出未納米に振向け、簡易の引渡によって受配と供出とを完了したものであることが認められるのであるから、被告人石井勇は不正の手段によって小西秀太郎をして実質上判示玄米の配給を受けさせた者といわなければならない。それ故原審が被告人に措置令一〇条を適用して処断したからといって原判決には所論のような擬律錯誤の違法はない。

同第三点について。

しかし、多数ある証拠の中それがたとい同一人の供述であったとしても、そのいずれを措信して証拠として採用するかは事実審たる原裁判所の裁量に属するところである。そして被告人等の原審公判廷における供述は第一審公判廷における供述に優先してこれを証拠として採用しなければならぬという法則も存しないから、原審が所論小西秀太郎に対する玄米一石五斗を特配する事由の認定資料として第一審第二回公判調書中の被告人石井勇の供述記載を採用して所論に摘録する原審公判調書中の同人の供述証人大国谷四郎及び同小西秀太郎の供述を採用しなかったからといって採証の法則を誤ったものとはいうことができない。所論は結局事実審たる原裁判所の証拠の取捨乃至事実の認定を非難するに帰し上告適法の理由とならぬ。

同第四点について。

しかし、原判決挙示の各証拠に照して、原判示第一の(一)の各事実殊に被告人の犯意の認定はこれを肯認するに足り、その間反経験則等の違法は存しない。所論は要するに原判決が概ね証拠として採用しないものに基ずき事実審たる原裁判所の事実誤認を主張するものにすぎないから上告適法の理由とならぬ。

被告人分部桃彦弁護人浅川文哉の上告趣意について。

所論は結局原判決挙示の証拠に照して肯認することのできる原判示事実の認定を非難するに帰し、上告適法の理由とならぬ。

よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例