最高裁判所第一小法廷 昭和24年(れ)3041号 判決 1950年4月06日
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差し戻す。
理由
弁護人池田克上告趣意第三点について。
原判決が判示事実を認定する証拠資料の一つとして、所論笠井充に対する司法警察官の聴取書の供述記載を引用していること並びに原審第四回公判において原審弁護人は右聴取書の供述者たる笠井充を証人として訊問されたき旨請求したところ原裁判所がその請求を却下したことは所論のとおりである。尤も原審においては右聴取書の作成者たる司法警察官小林偉伸を同公判において証人として訊問している。刑訴応急措置法一二條によれば、証人その他の者の供述を録取した書類の供述者について、被告人から証人尋問の申請がなされた場合には、公判期日においてこれを尋問する機会を被告人に与えなければ、かかる書類を証拠とすることはできないのである。すなわちかかる場合に供述を録取した書類の作成者を尋問しただけでは、被告人の請求の趣旨を充たしたということはできず、従ってかかる書類を証拠とすることはできないものと解するを相当とする。そしてまた本件において供述者たる笠井充を訊問する機会を与えることができず又は著しく困難な情況は記録上これを認めることができない。されば、原判決は結局右規定に違反してその供述を録取した書類をその供述者を公判期日において訊問する請求があったにかかわらずその機会を与えないでこれを証拠とした違法あるものといわなければならない。そして、その違法は、本件物資の性格、被告人の主観的認識その他原判決の判示認定に影響を及ぼすおそれがあるから、本論旨は、その理由があって、原判決は既にこの点において破棄を免れない。
よって、爾余の論旨に対する判断をすべて省略し旧刑訴四四七条、四四八条の二に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)