最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)179号 判決 1953年1月22日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人等の負担とする。
理由
上告代理人弁護士柴田治の上告理由について。
原判決が所論摘示のとおり判示したことは所論のとおりである。しかし、仮りに被上告人の上告人に対して交付した金八万四千円が不法原因給付であつてその返還を請求し得ないものであるとしても元来同条が不法の原因のため給付をした者にその給付したものの返還を請求することを得ないものとしたのは、かかる給付者の返還請求に法律上の保護を与えないというだけであつて、受領者をしてその給付を受けたものを法律上正当の原因があつたものとして保留せしめる趣旨ではない。従つて、受領者においてその給付を受けたものをその給付を為した者に対し任意返還することは勿論、曩に給付を受けた不法原因契約を合意の上解除してその給付を返還する特約をすることは、同条の禁ずるところでないものと解するを相当とする。そして、かかる特約が民法九〇条により無効であると解することのできないことも多言を要しない。果して然らば、原判決が、同条は、不法原因のため給付を為した者が自ら原因の不法であることを主張してその返還を請求する場合にだけ適用があるもののように説示したのは、狭きに失し当を得ないけれども、本件につき判示返還の特約の存在を認め、仮りに本件物資買入が食糧管理法に違反して不法のものであるとしても右特約にもとずき振出された手形金の支払を求める被上告人の本訴請求には民法七〇八条を適用する余地がないものとして上告人の抗弁を排斥したのは、結局正当であるといわなければならない。それ故、論旨は、採用することができない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎)