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最高裁判所第一小法廷 昭和24年(オ)336号 判決 1952年11月27日

津山市小田中二一九番地ノ四

古米雪代訴訟承継人上告人

古米正隆

岡山県上川郡吹屋町大字吹屋二九三番地

古米雪代訴訟承継人上告人

末田喜美

右両名訴訟代理人弁護士

香山親雅

同県苫田郡一宮村大字東一宮山方一〇六六番地

被上告人

柴田二郎

津山市三丁目三番地

被上告人

高島克巳

津山市新漁町二五番地ノ一

被上告人

高柿芳松

右当事者間の建物所有権保存登記及売買に因る建物所有権取得登記抹消登記手続請求事件について、広島高等裁判所岡山支部が昭和二四年一一月二五日言渡した判決に対し、上告人等から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人等の負担とする。

理由

原判決挙示の証拠を綜合すれば、判示のような認定をしたことを肯認することができる。所論証人河崎富一の証言は単に柴田直一から、本件新築に係る家屋は、上告人先代古米雪代のため建てるのであると聞いたというのであり、また証人山田忠治郎の証言は、右雪代から、本件各家屋は同人の子たる上告人が一五歳になつたらその名義にすることになつていると聞いたという程度のものであつて、いずれもはつきりと本件各家屋が右雪代の所有であると述べているのではない。従つて、かかる伝聞証言から必ずしも右家屋が同人の所有であることを認めなければならぬものではない。被上告人等訴訟代理人の申出に係る証人等が虚偽の事実を陳述したということは、論旨にいうように、同証人等が被上告人二郎の近親者であること、証人高山阿〓の証言が一審におけると二審におけるとで差異があるということから必然的に導きだされるものではないその他上告人援用の証拠及び弁論の全趣旨によつてその主張のような事実を認めなければならないものではなく、論旨は畢竟原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するに帰し、上告理由として採用し得ないものである。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

昭和二四年(オ)第三三六号

上告人 古米正隆

外一人

被上告人 柴田二郎

外二人

上告代理人弁護士香山親雅の上告理由

第一点

原審判決理由中控訴人等は母古米雪代が別紙甲号目録の家屋を昭和十年頃訴外岡田敬政から買受け別紙乙号目録の家屋を昭和十一年頃新築し各その所有権を取得したと主張するから先づその真否について審案するに原審に於ける証人実村益治、加藤富子、野井重市、安藤国代、末田米治郎当審に於ける証人実村益治、安藤国代控訴本人古米正隆はいづれも右控訴人の主張に副ふやうな供述をして居るが右各供述は後に顕はれる証人岡田敬政以下の各証言に照らし遽に信用することができずその他控訴人側の各証拠を総合して見ても右主張事実を確認するに足らないその反対に原審証人岡田敬政、江崎富一、守安栄龍、秋山てふ、吉村薫、中島清治郎当審証人高山阿〓のの各証言原審に於ける柴田辰野本人の供述(但し登記手続に関する部分を除く)及同供述に依つて真正に成立したものと認められる乙第一号証の一、二成立に争のない甲第二号証の一、二同第十六号証の各記載並に口頭弁論の全趣旨を綜合すれば被控訴人柴田二郎の父柴田直一(昭和二十年三月五日死亡)は昭和五、六年頃妻子を郷里に残して津山市に出て会社に勤務中昭和六、七年頃控訴人等の母古米雪代と関係を生しこれを妾として同棲し昭和二十年一月胃癌のため妻子の許に引揚けるまでその関係を続けて居たものであるが右雪代と同棲中昭和十一年頃訴外岡田敬政から別紙甲号目録の家屋(未登記)を代金七百五十円て買受けて所有しこれを訴外吉村薫に賃貸し次でその頃大工である訴外江崎富一に別紙乙号目録の家屋一棟(三戸建)を他の家屋一棟(津山市小田中字新座千四百番ノ四所在)と共に代金合計二千七百二十円で請負はせ新築して所有し右乙号目録の家屋の中央一戸に雪代と共に棲み両端の二戸の内一戸には直一の実姉高山阿〓のに住居させ残り一戸と新築の他の一棟とは他に賃貸し右各賃料は雪代に取立てさせ同人との共同生活の費用に充当させて居たが以上各家屋ともその台帳面の所有名義は仮に姉高山阿〓のと為し納税も阿〓の名義でして居たことその後直一と雪代との間が次第に不仲となつて昭和十九年頃には手切金七千円を雪代へ与へるやうな話も出て既にその一部として前記新築の別家屋(津山市小田中字新座千四百番の四所在)の売得金その他で金四千円を雪代へ交付して居たところ前記のやうに直一が胃癌に罹り雪代を残して妻子の許に立帰つたのでその後は雪代単独で本件各家屋を使用或は管理して居たのであるが同家屋の所有権は矢張り直一に属して居たものであることが認定できる尤も甲第十四号証第十八号証ノ一、二の家賃金領収帳に古米といふ領収印が押され同第十九号証の一、二の家屋税領収証書に納税管理人として古米正隆の名が記載され同第二十号証の地代領収証に宛名が古米雪代となつて居る点だけからみれば本件各家屋は雪代の所有であつたやうな外形が存して居るけれども既に述べた通り雪代は直一と同棲中は共同して又直一が去つた後は単独で本件家屋を管理して居たものであるから雪代が税金地代を支払ひ家賃を取立てたと云つても直ちに家屋が同人の所有であつたとは認められないので前記各書証は前段認定の妨けとはならないものである以上の通り本件各家屋は古米雪代の所有てなかつたので控訴人等が遺産相続をしてもその所有権を取得する筈はなく従つて同家の登記に不都合な点があつたとしてもその抹消を求むる権利のないことは勿論で控訴人等の本請求は失当であるから棄却さるべくこれと同趣旨に出でた原判決は相当で本件控訴は理由がないト記載アリ然レトモ上告人等ノ被相続人古米雪代ハ昭和二十年七月十五日死亡セシモノナルカ同人ハ本件訴状添付甲号目録記載ノ建物ヲ昭和十年頃訴外岡田敬政ヨリ代金七百五拾円ニテ買受ケ其ノ所有権ヲ取得シ同乙号目録記載ノ建物及ヒ津山市小田中字西新座千四百番ノ四地上ニ在ル木造瓦葺弐階建居宅壱棟(建坪三十九坪外弐階弐拾参坪)ハ同十一年頃訴外河崎富一ニ対シ前者ノ建物ハ報酬金千弐百弐拾円後者ノ建物ハ同金千五百円ニテ同時ニ請負ハセ同十二年六月頃竣工ノ上其ノ引渡ヲ受ケ之カ所有権ヲ取得セシモノナリ然ルトコロ右千四百番ノ四地上ニ在ル建物ハ右雪代カ訴外安藤国代ニ対シ同十八年十二月十五日代金参千弐百円ニテ売渡シ其所有権ヲ喪失セリ。

前項記載ノ事実ハ上告人訴訟代理人カ第一審ニ於テ提出セル甲第一号証(認諾調書)同第二号証ノ一、二同第三号証ノ一、二同第四号証同第五号証同第六号証同第七号証ノ一、二同第八号証ノ一乃至三同第九号証ノ一、二同第一〇号証ノ一乃至三同第一一号証ノ一、二同第一二号証ノ一乃至三同第一三号証ノ一乃至三同第一四号証並ニ同代理人カ原審ニ於テ提出セル同第一五号証同第一六号証同第一七号証ノ一乃至三同第一八号証ノ一、二同第一九号証ノ一、二同第二〇号証同第二一号証ノ各記載及ヒ代理人カ第一審ニ於テ申出ニ係ル証人福永亀之助、同実村益治ノ各全証言同河崎富一ノ証言中請負代金ハ(イ)家屋千五百円(ロ)家屋千二百二十円トシ二棟一度ニ契約シマシタソシテ昭和十一年着工翌十二年六月竣工致シマシタ出来上リ家屋ノ引渡シハ(イ)(ロ)何レテアツタカ忘レマシタカ新築ノ家テ柴田及ヒ原告ノ居ルトコロテ御馳走ニナリナカラ二人ノ中誰ニトモナク致シマシタ請負代金ハ三、四回ニ分ケテ受取リマシタカ何時モ原告カ箪笥カラ金ヲ出シテ柴田ニ渡シ証人ハ柴田ト一緒ニ当時柴田カ勤メテ居タ同市田町ノチヱン会社ニ行ツテ其所テ柴田カラ受取リマシタカコノ金ハ実際誰カ支出シタモノカ知リマセヌ証人ハ実村カラ右家屋ノ新築工事ノ紹介ヲ受ケマシタトキ証人宅テ此家ハ別嬪カ建テルノダト謂フコトヲ聞キマシタカ其ノ別嬪ト謂フノカ原告テアルコトハ右工事ノ為津山市ニ来テ見テ初メテ知ツタノテアリマス証人ハ最後ニ右新築工事ノ請負金ヲ受取ツタノハ千円位デアリマシタカ此ノ時モ前述同様原告カ金ハ此所ニアルト云ツテ箪笥カラ出シテ柴田ニ渡シ証人ハ柴田ト一緒ニチヱン会社ニ行ツテ其所テ柴田カラ受取リマシタ前述ノ様ニ請負代金ヲ殊更チヱン会社テ受取リマシタノハ受取証ニ貼ル印紙カ柴田宅ニナクチヱン会社ニアツタカラテアリマスト陳述セル部分同加藤富子、同野井重市ノ各全証言同岡田敬政ノ証言中証人ハ柴田ニ対シ前述ノ家屋売渡ノ少シ前借金ヲ申込ミ金カナイト云ツテ断ラレタ事カアリマス其ノ当時証人ハ相場ニ手ヲ出シテ居マシタノテ柴田ハ証人ヲ信用セス其ノ為証人ノ借金申込ヲ断ツタノダト思ヒ柴田ニ家ヲ売ツテモ良イト云ヒマシタ処前述ノ様ニ柴田カ家ヲ買受ケタノテアリマス其ノ時証人ハ柴田ニ金カアリナカラ何故貸サナカツタノカト云ヒマシタラ柴田ハ自分ノ金テハナイト答ヘマシタカ誰ノ金トモ云ヒマセヌテシタ同山本広、同衣笠寿夫ノ全証言同山田忠治郎ノ証言中本年三月頃原告カ証人宅ニ来テオ読聞ケノ家屋ニ付此家ハ名義ハ被告高山阿〓の名義ニナツテ居ルカ之ハ原告ノ子カ十五歳ニナツタラ其ノ名義ニスルコトニナツテ居ルカ云々ノ陳述部分同森安栄龍ノ証言中昭和十六年以降ハ原告カ什ウカ知リマセヌカ女カ持参シタ様ニ思ヒマスト陳述部分同吉村薫ノ証言中家賃ハ毎月原告カ証人宅ニ受取リニ来マシタノテ同人ニ支払ツテ居マストノ陳述部分同安藤国代、同末田米治郎ノ各全証言同被告本人高山阿〓のノ雪代死亡后ノ陳述殊ニ私ハ原告カラ云フコトヲ聴カネハ火ヲ放ケルト云ツタリ出刃庖丁ヲ持ツタリ等シテ脅サレタコトハアリマセヌ私ト原告トノ交際ハ普通テアリマシタ旨ノ陳述同代理人カ原審ニ於テ申出ノ証人石井忠信、同実村益治、同安藤国代ノ各全証言同上告人本人古米正隆ノ陳述被上告人訴訟代理人カ第一審ニ於テ申出ニ係ル被上告人柴田二郎法定代理人親権者柴田辰野ノ証言中甲第九号証ノ二同第十号証ノ二同第十一号証ノ二同第十二号証ノ二(何レモ高山阿〓のヨリ山本広ニ対スル登記委任状)ヲ示シテノ問ニ対シオ示ノ書類ハ代書ヲシテ居ル山本サンカ作成シテ送ツテ呉レタモノテ阿〓の名義ノ印ハ私又ハ二郎カ押シタモノテハアリマセヌ又誰カ押シタカヨク知リマセヌカ多分夫カ押シタモノト思ヒマス甲第十号証ノ三同第十二号証ノ三同第十三号ノ二(何レモ柴田二郎ノ委任状)ヲ示シテノ問ニ対シオ示ノ書類ノ柴田二郎名下ノ印ハ夫カ押シタモノテス甲第十三ノ二ノ柴田直一名下ノ印ハ誰カ押シタノカヨク知リマセヌ斯様ニ登記スルニ付テ山本サンニ登記書類ノ作成ヲ依頼ニ行ツタノハ二郎テアリマス衣笠サンニ依頼ニ行ツタノハ池上ト謂フ人カ行ツテ呉レタト思ヒマス旨ノ陳述同竹内恒雄ノ証言中証人ノ父ハ竹内滝蔵ト謂ヒマシタカ昭和十六年ニ死亡致シマシタ旨ノ陳述同中島清治郎ノ証言中証人ハ直一カ何故右二筆ノ建物ヲ阿〓の名義ニシタノカ其ノ事情ハ知リマセヌカ直一ト原告ノ関係カ妾対丹那ノ関係テアリマスノテ原告ニ取ラレテハナラナイト謂フ処カラソウシタノダト思ヒマス旨ノ陳述右雪代カ原告トナリ高山阿〓のヲ被告トシテ岡山地方裁判所津山支部ニ対シ本件二筆ノ建物ノ所有権カ原告ニ存スル旨ノ確認訴訟(甲第一号証ノ訴訟)ヲ提起セシハ訴外柴田直一カ死亡(昭和二十年三月五日)前ナル同年一月十八日ナルコト被上告人訴訟代理人カ第一審並ニ原審ニ於テ申出ノ証人ハ孰レモ被上告人二郎ト所謂異体同心的関係ヲ有スル近親者ニシテ而モ之等ノ者共カ主謀者(証人柴田辰野)トナリ雷同者トナリ虚偽ノ事実ヲ捏造セルモノナルコトハ被上告人訴訟代理人カ原審ニ於テ申出ニ係ル証人高山阿〓の証言カ同人従来ノ陳述ト著シク相違シ上告人等ニ利益ノ陳述カ被上告人等利益ノ証言ニ移行セル事実ニ徴シ其ノ然ルヲ窺知スルニ難カラサルコト乙第一号証ノ一、二同第二号証ノ一、二同第三号証ノ一乃至三ノ各遺言ハ今仮リニ斯ル遺言アリタリトスルモ孰レモ違式ニシテ全然無效ナルコト等彼レ之レ綜合考覈スルトキハ上告人等主張事実ハ真実ニシテ被上告人等ノ抗弁事実ハ虚偽ナルコトヲ確認シテ余リアリト謂ハサルヘカラス原審ノ事実ノ誤認ハ結局原審ハ弁論ノ全趣旨及ヒ証拠調ノ結果ヲ斟酌スルコトナク其ノ有スル証拠ノ価値判断権ヲ濫用シ以テ上告人等ニ敗訴ノ判決ヲ為シタル違法アルモノト謂ハサルヘカラス。

以上

甲号目録

津山市小田中字西新座千三百九十一番地ノ一地上

家屋番号小田中四一九番

一、木造瓦葺二階建居宅 一棟

建坪十一坪一合

外二階十一坪一合

一、木造瓦葺平屋建炊事場 一棟

建坪三坪

一、木造瓦葺平屋建便所 一棟

建坪一坪五合

一、木造亜鉛葺平屋建納屋 一棟

建坪一坪二合

乙号目録

津山市小田中字馬ケ谷二百十九番ノ四地上

家屋番号小田中三四番

一、木造瓦葺弐階建居宅 一棟

建坪三十八坪六合

外二階十八坪二合

以上

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