最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)144号 判決 1950年7月06日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人高橋正平上告趣意第一、二点について。
その第一点は事実誤認を、第二点は量刑不当を主張するに帰し、何れも上告適法の理由として認め難い。
同第三点について。
所論は、原判決においては「本件控訴理由は末尾添附の控訴趣意書の通りである」と判示しているが、その添付してある控訴趣意書は原審弁護人太田恒治の控訴趣意書だけで被告人及び原審相被告人作成の控訴趣意書は添付していないから、原判決書はその一部を欠いたものであるか又は被告人提出の控訴趣意書については判断がないから違法であると主張するのである。
被告人及び原審相被告人の提出した控訴趣意書が原判決末尾に添付してないことは所論のとおりである。原審第一回公判調書を見ると(弁護人米田恒治出頭、弁護人は控訴趣意書に基いて弁論した」と記載してあるに止まる。記録によれば、被告人及び原審相被告人がその控訴趣意書に基いて陳述したとの記載もなければ、また之を撤回したとの記載もない。かくの如く被告人等の提出した控訴趣意書は、被告人等のこれに基く陳述の有無を問わず当然控訴審における訴訟資料となるものであるから、苟くも被告人等においてこれを特に撤回せざる限り、控訴審においてはこれらの控訴趣意書に対して判断を下すべきものであると言わねばならぬ。この意義において所論の指摘は形式的にはまことに正しいのである。だがしかし、一歩を進めて本件の実質を熟視すると、被告人等の控訴趣意書の内容は、悉く原審弁護人米田恒治の控訴趣意書の内容の一部として内包されていることが明らかである。それ故、原判決が右弁護人の控訴趣意書を添付しこれについて判断を下している以上、形式的に被告人等の控訴趣意書の添付を欠いているとしても、実質的には被告人等の控訴趣意に対して判断がなされているものと見るを相当とする。従って、本件は刑訴四一一条により原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認めることができない。
被告人上告趣意について。
上告趣意書提出期間経過後の提出であるから不適法である。(その内容も単に事実誤認、量刑不当の主張で上告適法の理由に当らない。)
よって刑訴四〇八条、一八一条一項に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 真野 毅 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 斎藤悠輔)