最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)2589号 決定 1951年9月06日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人泉芳政上告趣意第一点について。
所論証人の証言は、自己の認識そのものとして供述せられていること記録上明らかである。そして人は自己又は年令の極めて近接した兄弟姉妹の生年月日については、その幼少の頃にあっては父母その他のものから教えられることによってのみ、はじめてこれが知識を得るものであること勿論であるが、その成長するに従い、近親者相互の密接な生活関係、殊に日常の家庭生活等において集積される自己の体験によりその知識の真実性に関し独自の確信を有するに至るものであることも亦多言を要しないところであるから、かかる知識はその直接体験による認識というを妨ぐるものではない。されば右と同旨の見地に立って、所論証人の証言を事実認定の資料とした第一審判決を是認した原判決には所論のような違法はなく、右証言が刑訴三二四条二項の適用を受くべき伝聞証言たることを前提とする所論違憲の主張は、その前提を欠くものであり、上告適法の理由とならない。
同第二点について。
原審の是認した第一審判決は、被告人が村田福子の兒童であることを知りながら同女に売淫させた事実を認定し児童福祉法六〇条一項を適用したものである。所論は同条三項の規定が違憲たることを主張するに過ぎないのであるから、原判決の法令違反には何のかかわりもない。論旨は上告適法の理由に該当しない。
同第三点について。
第一審判決は所論被告人の所為を一体として児童福祉法三四条一項六号にいわゆる児童に淫行をさせる行為をしたものに該当すると判示しているのである。この事は判文上明白であり、同判決には所論のような違法はない。(同判決に児童福祉法六〇条一項が重複摘示されているのは単なる誤記に過ぎないものと認められる)。のみならず所論は原審において控訴趣意として主張されず、従って原判決も何等判断を示していない事項について判例違反を主張するに過ぎないものであるから上告適法の理由に該当しない。なお本件では刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって刑訴四一四条三八六条一項三号に従い主文のとおり決定する。
この決定は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔)