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最高裁判所第一小法廷 昭和25年(あ)62号 判決 1950年4月20日

主文

本件上告を棄却する。

当審における訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

弁護人岸達也上告趣意第一点について。

刑訴四〇〇条但書に「控訴裁判所において取り調べた証拠」とあるのは、同三九三条の規定により控訴裁判所が調査の必要上特に取り調べた証拠を指すに過ぎないものであるから、この規定のみを根拠として、同四〇〇条但書の場合においては控訴審の公判廷において一切の証拠の取調につき必ず覆審をしなければならぬと解することはできない。元来新刑訴における控訴審は、旧刑訴における控訴審とは異って、第一審手続の覆審ではなく、第一審判決における一定の事実点並びに法律点に対する事後審査の手続である。そして、控訴審の公判期日には被告人は原則として出頭せず、検察官及び弁護人は控訴趣意書に基いて弁論すべき旨の特別の定めが訴訟法中に規定されているから、刑訴四〇〇条但書によって直ちに判決をする場合においても、所論のように同四〇四条により第一審の公判に関する規定を準用して事実の取調並びに証拠調及び控訴裁判所において取り調べた証拠を資料として覆審を為し弁論を繰り返えし、被告人又は弁護人をして最終の陳述を為さしむべきものではない。されば、所論は、既にその前提において是認し難い。しかのみならず、所論は、単に原審の手続が訴訟法に違反していると主張するに過ぎないものであって、毫も原判決が所論の判例と相反する判断をしたことを主張するものでないから、刑訴四〇五条三号に当らないのは勿論同条一号にも該当しない。そして、本件では同四一一条を適用すべき場合とも認められないから、論旨は採用できない。

同第二点について。

しかし、記録を精査するも、所論第一審公判廷における被告人の供述を目して強要せられたものと認めることはできない。されば、該供述を採用した原判決は所論憲法三八条に違背するといえないし、また、刑訴四一一条を適用すべき場合とも思われない。本論旨も採るを得ない。

同第三点について。

しかし、原判決説示の証拠によれば、原判決の事実認定を肯認するに充分であって、刑訴四一一条を適用すべき余地を見ない。それ故所論は、採ることができない。

被告人の上告趣意並びに上申書について。

所論は、結局原判決認定の窃盗をした事実はないと主張するものである。それ故、当法律審における適法な上告理由にはならない。

よって刑訴四〇八条に従い主文のとおり判決する。

この判決は裁判官全員の一致した意見である。

(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 岩松三郎)

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