最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)1870号 判決 1951年4月05日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人藤井暹上告趣意について。
原判決は論旨も認めているように所論公判廷外の被告人の自白のほか、原判決挙示の証拠をも綜合して判示事実を認定しているのである。そしてこの事実認定はそれらの証拠を綜合すればこれを肯認するに難くないのである。論旨は原審が事実認定の資料とした証拠は、被告人の公判廷外における自白以外はすべて間接的な証拠であり、かかる証拠によって自白を補強することは法律上許されないところであると主張する。しかし、所謂自白の補強証拠としては、主として犯罪の客観的方面に関するものであり、自白の真実性を裏附けするに足るものであれば十分であって、その間接的証拠であると直接的証拠であるとを問わないものと解すべきである。この見解は既に当裁判所大法廷の判例によって判示せられている(昭和二三年(れ)七七号同二四年五月一八日判例集三巻六号七三四頁、同二三年(れ)一一二号同年七月一四日判例集二巻八号八七六頁参照)。されば右と反対の見地を前提とする所論には賛同することはできない。論旨は理由なきものである。
被告本人の上告趣意について。
原審の認定した判示事実は、原判決挙示の証拠を綜合すればこれを肯認するに難くないのである。すなわち右事実の認定には必ずしも所論のような実験則違背はなくこれを違法視することはできない。縷述の所論は原審が採用しなかったと認められる証憑を根拠として独自の見解を披瀝するに過ぎないものであり、結局事実審である原審がその裁量権の範囲内で適法になした証拠の取捨及び事実の認定を非難するに帰着し、上告適法の理由となすに足りない。
よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔)