最高裁判所第一小法廷 昭和25年(れ)623号 判決 1950年7月06日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
弁護人猪俣浩三の上告趣意について。
原判決が法律適用の量刑上の理由に関し「本件は労働争議中のしかも労資間の團体交渉に当り発生した事件であること並びに当時の被告人等を含む労働組合員の生活状態を考慮すれば組合員の切実な生活権擁護のためで被告人等闘争委員も亦組合員の信望を失わざらんがために過度に熱心であった結果と見ることができる云々」と判示したことは所論のとおりである。しかし、原判決は、本件犯罪事実の摘示として、本件は日本国憲法の制定前であり且つ旧労働組合法施行(昭和二一年三月一日施行)後間もない昭和二一年三月二〇日午前一一時頃から翌二一日午後一時頃迄の間僅かの休憩と食事とを採っただけで睡眠もすることなく約二六時間の交渉継続中に行われたものであること並に被告人等は千数百名を収容する青年学校講堂の場外に溢れる程多数参集した組合員大衆の威力を利用して或は会社が組合の要求を容れないのは会社幹部が物資を豊富に持っているからだと会社代表等の社宅へ隠匿物資の調査摘発に行くことを決議し、或は所長がこの壇上にある限り生命の保障をするが壇を降りれば自分達にはその保障はできないと告げ、以て、要求に対し組合側の満足する回答を得られるまでは何時までも前述のような情況下に交渉を継続する決意を示し、若し、水谷所長、佐山総務部長が交渉を避けようとすれば如何なる危害がその身体、自由、名誉の上に加へられるかも知れないという気勢を示して両名を脅迫したものであると認定判示している。されば、原判決は被告人等の所為を旧労働組合法一条の正当行為と認めなかった趣旨であること明白であるばかりでなく、原判決のかゝる憲法制定前の犯行の認定に対し憲法二八条、二五条等の権利が乱用されたかどうかの判断をしないとの所論は、原判示に副わない非難であって、たやすく是認することはできない。
そして旧労働組合法一条二項の規定は勤労者の團体交渉においても刑法所定の暴行罪又は脅迫罪にあたる行為が行われた場合にまでその適用があることを定めたものでないことは既に当裁判所大法廷の判例とするところであるから(昭和二二年(れ)三一九号同二四年五月一八日大法廷判決判例集三巻七七二頁以下参照)、原判決が被告人等の判示所為を暴力行為等処罰に関する法律一条一項刑法二二二条一項に当るものとして有罪とし、たゞその犯情において冒頭摘録のごとく同情すべきものとして量刑した上刑の執行猶予をしたのは正当といわなければならない。論旨はそれ故採ることができない。
よって旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
(裁判長裁判官 齋藤悠輔 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎)