大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和25年(オ)111号 判決 1954年1月21日

青森県東津軽郡野内村大字久栗坂字山辺四一番地

上告人

赤坂正作

右訴訟代理人弁護士

丸岡奥松

北海道苫前郡苫前町字力昼三二〇番地

被上告人

石岡静江

右当事者間の漁業権移転登録(本訴)及び家屋明渡動産引渡(反訴)請求事件について、仙台高等裁判所が昭和二五年二月一三日言渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告訴訟代理人丸岡奥松の上告理由第一点について。

上告は原判決に法令違背あることを理由とする場合に限り許されるのであり、ここにいわゆる法令違背とは、適用すべからざる法令を適用し、または適用すべき法令を適用しないことを指称するものであるから、たとえ上告審判決当時施行せられている法令であつても原判決当時施行せられていない法令で遡及効のないものについては、原判決がこれを適用しなかつたとしてもこれにより判決に法令違背ありということはできない。そして殊に、実体法規にあつては、判決当時施行せられている法令であつても、遡及効のない限り、その施行前に成立した法律関係についてはこれを適用すべきものでないことは多言を要しないところである。

原審の確定した事実によれば、本件漁業権については昭和二〇年七月一日売主上告人と、買主被上告人先代石岡謙一との間に、代金四万円を内金二万円は即日、残金の内金一万円は同年七月三〇日、内金五千円は昭和二一年六月三〇日、残余の金五千円は昭和二二年六月三〇日に支払うべく、漁業権の移転登録(その他売買の目的たる不動産の所有権移転登記)手続は昭和二一年七月三〇日前記内金一万円の支払と同時に行う旨の約定の下に売買契約が成立した。そして右石岡謙一は即日右代金の内入として金二万円を上告人に支払つたが、昭和二〇年七月三〇日を支払期とする金一万円の内金五千円を同年八月五日上告人に支払つただけでその余の支払をなすことができず、上告人に対し昭和二一年五月までには相当の利息を附してその支払をなすからそれまで猶予され度い旨を申出でその諒承を得たままで同月一四日死亡し、被上告人においてその家督相続をなし右謙一の権利義務を承継するに至つた。然るところ上告人から本件漁場を被上告人と共同経営にしたい旨提議して来たので、双方協議の末、同月二二日本件漁場を被上告人が五分の四、上告人が五分の一の割合で経営費を負担して共同経営し、これによる利益及び損失も右の割合によつて分配すること、被上告人が将来本件漁場を他へ処分する場合には上告人の承諾を得ること、被上告人は上告人に対し、本件売買代金中昭和二〇年七月三〇日を支払期とする金一万円の残金五千円及び昭和二一年六月三〇日を支払期とする金五千円の外、前者の支払がおくれたのについての謝礼(利息)として金一千円合計金一万一千円を即時に支払うことに話がまとまり、同日被上告人は上告人に対し右の金一万一千円を支払つた(なお昭和二二年六月三〇日を支払期とする残代金五千円も当時上告人がその受領を拒絶することが明白であつたので同日被上告人は上告人のために弁済供託をなした)というのである。右原審の確定した事実関係に徴すれば、本件漁業権は少くとも昭和二一年五月二二日当時既に上告人から被上告人に譲渡されていたものといわざるを得ない。

果して然りとすれば所論昭和二三年法律二二〇号「漁業権等臨時措置法」は昭和二三年一二月二日公布即日施行されたものであり、同法四条には漁業権は都道府県知事の認可(地先水面専用の漁業権については国務大臣の認可)を受けた場合を除き譲渡又は抵当権(現に存する抵当権を除く。)の目的となることができない旨規定されているけれど、右法律には遡及効は認められていないのであるから、その施行前既になされた本件漁業権の譲渡の効力を左右する筈なく、従つてその譲渡の当事者間においてこれが移転登録の手続を請求することを妨げるものではない。なお論旨引用にかかるその他の法令はいずれも原判決のなされた以後に施行されたものであり、しかも遡及効なきものであるから、原判決には何等の係りもない。されば論旨は採用に値しない。

同第二点について。

所論乙第七号証の一、二の記載、証人石岡みさの証言によるも、必ずしも所論のように本件漁業権に対する財産権の負担につき特別の約定のあつたこと、及び右税金の納付と移転登録を同時履行の関係に立たせる趣旨の約定があつたことを認定しなければならないものとは認められない。されば原審が前示証拠の存在するに拘わらず、右のような各約定のあつたことを認めるに足りない旨判断したからとて、原判決に所論のような違法があるとはいい得ない。論旨は理由がない。

同第三点について。

所論は結局原審が適法になした事実認定を非難するに帰し、上告適法の理由に当らない。

よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例