最高裁判所第一小法廷 昭和25年(オ)394号 判決 1953年10月01日
主文
原判決を破棄する。
本件を福岡高等裁判所に差戻す。
理由
上告代理人弁護士渡辺隆治の上告理由について。
原審は、本件家屋とその敷地がいずれも被上告人の所有に属すること、昭和二二年七月一四日被上告人は訴外劉永福に本件家屋につき売買による所有権移転の登記をなし、上告人は同年七月二九日訴外劉永福から本件家屋を買受け、同月三一日その旨の登記をしたものであること、被上告人と訴外人との間の本件家屋の売買が仮装になされたものであること並びに上告人は被上告人と訴外人との間の本件家屋の売買が仮装になされたものであることを知らない善意の第三者であることを認定しているのである。そこで、被上告人は上告人の該敷地の不法占有を理由として家屋収去、土地明渡を訴求しているのであるが、被上告人は善意の第三者たる上告人に対しては被上告人と前記訴外人との間の仮装売買の無効を対抗するを得ないわけであり、しかも本件では、右売買が取毀家屋としてなされたものであるから、前記訴外人から建物を買受けた上告人の所有は被上告人において承認しなければならぬ法律関係にある。それ故、被上告人が上告人の前記家屋所有のために土地賃貸借を設定することを承諾せざる場合には上告人は借地法一〇条により建物買取請求権を有するものといわなければならぬ。なぜならば、かかる場合においても建物を収去破壊するよりは建物をその侭の状態において経済的価値を保持することは社会のために必要であるからである。そして上告人は本件家屋の買取を請求する旨主張していることは原判決に示すとおりであるから、原審は上告人のこの請求につき審理すべきであるのにかかわらず、判断を遺脱した違法がある。されば本件上告はこの点においてその理由があり原判決は破棄を免れない。
よつて民訴四〇七条に従い裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 岩松三郎)