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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)1657号 判決 1953年2月12日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人武藤鹿三の被告人木下豊のための上告趣意第一点は、憲法三七条二項違反を主張するが、同条項の法意は、裁判所は被告人又は弁護人から申請した証人を、不必要と思われる者まで悉く尋問しなければならないという趣旨でないことは、当裁判所の判例とするところであり、(昭和二三年(れ)第二三〇号同年七月二九日大法廷判決)、相被告人後藤進が、司法警察官に対してなした供述調書の任意性の調査は、裁判所が適当と認める方法によってこれを行うことができるものであり、必ずしも証人の取調によって認定するの要なく(本件において、第一審裁判所は、所論供述調書の任意性について丹羽地区警察署刑事主任伊予田潜を証人として取り調べている)第一審が所論各証人を必要ないものと認めてこれを取り調べなかった措置を是認した原判決は正当であって論旨は理由がない。また同弁護人の被告人中村栄助のための上告趣意第一点及び、被告人木下豊のための上告趣意第三点は憲法三八条一項違反を主張するが、同条項の法意は、威力その他特別の手段を用いて供述する意思のない被告人をして供述を余儀なくせしめることを禁ずる趣意であることは当裁判所の判例とするところであるが(昭和二三年(れ)第一〇一〇号同二四年二月九日大法廷判決)、被告人等が警察又は検察庁において取調を受けた際、当該取調官から、自己の意思に反し自己に不利益な供述を余儀なくせしめられたとの事実は記録上これを認めるに足る証拠なく、従って、所論はその前提を欠くものであり、また同弁護人の中村栄助のための上告趣意第二点は単なる法令違反の主張であり、被告人林義雄の弁護人北村利弥の上告趣旨は量刑不当の主張であって、いづれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 真野 毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

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