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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(あ)4205号 判決 1953年2月19日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人小野謙三の上告趣意について。

本件につき柏崎簡易裁判所に略式命令の請求があったが同裁判所裁判官武田益蔵は略式命令をすることが相当でないと認めてその旨を検察官に通知した結果通常公判手続に移ったこと、次で同一裁判官の下で二回の公判審理とこれに伴う証拠調がなされた末同裁判官は右事件は地方裁判所において審判するを相当と認め管轄地方裁判所である新潟地方裁判所柏崎支部に移送する旨の決定をし事件が同支部に係属するに至ったこと、並びに、その後右同一裁判官が柏崎支部裁判官として右事件の審理及び判決をしたことは記録上明白である。しかし、憲法三七条一項にいわゆる公平な裁判所の裁判とはその組織、構成において偏頗でない裁判所の裁判を指すものであることは、当裁判所屡次の判例である。そして、本件第一審裁判所裁判官は、前示のごとき経緯で審判をしたものであって、同一裁判官が簡易裁判所裁判官としてその略式命令をすることが相当でないとした理由並びにその移送決定の理由が、仮りに所論のごとく罰金刑以上の懲役刑等の刑に処するを相当とすると思料したためであったとしても、原判決説示のとおり法律上職務の執行から除斥される事由があるものといえないし、また被告人並びに弁護人からこれを理由として忌避の申立をした事跡も記録上認められなく、且つ、柏崎のごとく一人の裁判官が簡易裁判所裁判官と地方裁判所支部裁判官とを兼任している裁判所においては本件のごとき経緯を以て同一の裁判官が本件第一審のごとき審判をすることは、訴訟法上止むを得ないところであって、その審判を違法であるともいうことができない。そして、本件では他に同裁判所裁判官が事件につき予断を抱き若しくは不公平な裁判をする虞があったことはこれを認めることができないから、その裁判を目して右憲法の条項にいわゆる不公平な裁判であるということはできない。従って、原判決の判断は、当裁判所の所論判例に副いこそすれこれに反するものといえないから所論は、その理由がない。

よって、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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