大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)2143号 判決 1953年1月17日

本籍

名古屋市中村区元中村町一丁目七八番地

住居

東京都中野区野方町一丁目八一二番地 高崎保方

著述業

伊東ハンニこと

松尾正直

明治三一年八月二五日生

本籍

高崎市砂賀町一三番地

住居

群馬県邑楽郡舘林町鷹匠町八五二番地

化学工業

祥次郎こと

須田尚次郎

明治四〇年一月一日生

右両名に対する詐欺被告事件について昭和二六年七月二〇日東京高等裁判所の言渡した判決に対し各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件各上告を棄却する。

理由

弁護人今成泰太郎の上告趣意第一、二点について。

所論は、原判決は被告人の出頭がないのに審判したか、又は、法律に依り公判手続を停止すべき事由ある場合においてこれを停止しなかつた旧刑訴法違反があるというのであるから、いずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(そして、昭和二六年六月一八日の原審第二八回公判期日に同月一六日附医師高橋忠雄、同高崎保の診断書を添え公判延期願が提出されたことは所論のとおりであるが、同診断書によつても必ずしも出廷不可能な疾病とは認め難いばかりでなく、現に被告人は同公判期日に出頭し、公判延期申請が却下されるや自ら裁判長忌避の申立をし、該申立が却下されるや更らに抗告を申立て且つ証人二宮到の訊問途中裁判所の許可を受けないで退廷したこと並びにその後適式な公判期日の指定があつたにかかわらず被告人は同年七月二日附高崎保医師の診断書を差出しただけで、公判延期願を提出することもなく、その他首肯すべき事由をも示すことなく、同年七月四日の第二九回公判期日及び同年同月六日の第三〇回公判期日に出頭しなかつたことが記録上明白である。

されば、以上の経緯に照し原審が前記七月二日附高崎医師の診断書を措信せずに何等公判手続を停止することなく、爾後被告人不出頭のまゝその陳述を聴かないで審判したからといつて、所論の訴訟法違反があるともいえない。)

同第三点及び第五点について。

所論は、原判決が適法になした事実の認定乃至その裁量に属する証拠調の範囲、限度並びに証拠の取捨判断を非難するに帰し、刑訴四〇五条の適法な上告理由となし難い。

同第四点について。

所論は、公判において為した証拠調の請求につき決定をしない旨主張するけれども、原審公判調書によればかゝる事実は認められないし、その他の主張は、結局原審の裁量に属する証拠調の範囲、限度を非難するものであつて、すべて刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第六点について。

憲法三七条一項にいわゆる公平な裁判所の裁判とは、被告人の側から見てその手続が不公平であると思われる裁判を指すものでないことは、当裁判所屡次の判例の趣旨とするところであり、また、被告人は、証人に対し審問する機会を充分に与えられながら、公判廷に在廷又は出頭しなかつたものであることは、論旨第一、二点について説明したとおりである。それ故、所論憲法三七条違反の主張は、採用できない。

次に、昭和二二年一二月六日附検事に対する被告人の訊問調書中の供述記載は記録(第一冊六五丁以下)に存在するし、同年同月一四日附検事に対する原判決引用と同趣旨の供述記載が記録中(同一四〇丁以下)に存在し後者の聴取書に被告人の拇印による契印はないけれどもかゝる契印がないからといつて同趣旨の供述をしたものでないといえないこと多言を要しない。また、判示第四事実の証拠中には、右検事に対する供述の外被告人の供述は何も掲げていない。そして、被告人の供述が強制されたものであることはこれを認むべき資料がないから、所論憲法三八条違反の主張も採ることができない。

弁護人渡辺憲一郎の上告趣意について。

所論は、原判決が適法になした事実の認定、並びに、原審の裁量に属する証拠の取捨判断を非難するに過ぎないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を精査しても同四一一条を適用すべきものとも思われない。

よつて、刑訴施行法三条の二、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例