最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)2240号 判決 1951年12月20日
本籍
朝鮮慶尚南道宣寧郡柳谷面漆谷里四七九番地
住居
新潟県中蒲原郡新津町大字西善道二五二番地
土木請負業
秋田春業こと
田春業
明治四一年七月一〇日生
右に対する酒税法違反被告事件について昭和二五年一〇月二七日東京高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので、当裁判所は刑訴施行法二条に従い次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人佐藤直敏の上告趣意について。
憲法二五条一項の法意は、概括的に一般国民のため、健康で文化的な最低限度の生活を営み得るよう国政を運用すべき国家の責務を明らかにしたものに過ぎないのであつて、具体的現実的に個々の国民が国家に対してかかる権利を有することを規定したものでないと解すべきことは、当裁判所大法廷の判例の存するところである(昭和二三年(れ)二〇五号同年九月二九日大法廷判決、判例集二巻一〇号一二三五頁以下参照)。しかるところ、原審の認定した判示被告人の所為が、昭和二四年法律四三号附則三項、同法律による改正前の酒税法一四条、六〇条一項に該当することは多言を要しないのであるから、仮りに所論の如くその犯行の動機が失業中最低限度の生活を維持するためであり、またその犯行の態様が如何に小規模であつたとしても、それだけでは原審が同条二項に従い所定刑の範囲内で被告人に対し懲役六月及び罰金二万円の刑を併科し、執行猶予の言渡しをしなかつたことを目して前記憲法の条項に違反するものとはいい得ない。そして刑訴応急措置法一三条二項の規定が違憲でないと解すべきことは当裁判所大法廷の判例とするところであるから、所論原審の量刑を非難する点は上告適法の理由となすに足りない。
よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員一致の意見である。
検察官 浜田龍信関与
(裁判長裁判官 岩松三郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔)