最高裁判所第一小法廷 昭和26年(れ)426号 判決 1951年6月07日
本籍
福島県岩瀬郡須賀川町字鍜治町四一番地
住居
東京都文京区根津八重垣町四三番地 古川芳五郎方
無職
古川ミサヲ
大正八年三月三〇日生
本籍
東京都北区滝野川町六二〇番地
住居
同町五〇二番地
青果販売業
黑瀨吉夫
大正一三年一月一九日生
右古川ミサヲに対する殺人教唆、黑瀨吉夫に対する殺人死体遺棄各被告事件について昭和二五年一二月五日東京高等裁判所の言渡した判決に対し各被告人から上告の申立があつたので当裁判所は刑訴施行法二条に従い次のとおり判決する。
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人古川ミサヲの弁護人宇野要三郎、同正田光治の上告趣意について。
第一点 原判決の事実摘示によれば、被告人は相被告人黑瀨に対して被害者和泉を殺害するよう依頼し、黑瀨はその依頼を応諾して判示殺害行為をしたというのであって、又原判決が証拠として挙げている相被告人黑瀨の原審公判廷の供述によれば、黑瀨は被告人古川の依頼によつて始めて殺意を決したというのであるから、被告人古川の前記殺人の依頼が殺人の教唆に当ることは明らかである。原判決には所論のような理由不備の違法は存在しないと言わなければならぬ。
第二点 原審が、前述のごとく被告人古川の依頼によつて被告人黑瀨は始めて殺意を決したものとした事実認定に反し、所論は、原審の証拠の取捨判断を非難して黑瀨は先きに殺意を生じて居り古川の依頼により更にその決意を固めたものに過ぎないとの独自の見解に立脚して従犯論を主張するものである。それ故に、論旨は採ることを得ない。
被告人黑瀨良夫弁護人石田馨の上告趣意について。
第一点 所論は、刑訴応急措置法一三条二項は違憲だと主張するが、その違憲にあらざることは、すでに判例において示したとおりである。論旨は理由がない。
第二点 旅館の客室で人を殺した者がその死体を右客室の床下に投棄秘匿する場合には、殺人罪の外に死体遺棄罪が成立することは明らかである。それ故に、論旨は採るを得ない。
よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
この判決は裁判官全員の一致した意見である。
検察官 竹原精太郎関与
(裁判長裁判官 眞野毅 裁判官 澤田竹治郎 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 岩松三郎)