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最高裁判所第一小法廷 昭和26年(オ)551号 判決

しかし小作地を無断転貸するということ自体はたとえ小作関係が人的信頼の関係を基調とするものであるとしてもその事情の如何を問わず、常に当然に農地調整法九条一項にいわゆる信義に反した行為であるとはいえないし、また、原判決の認定した事実によれば、それが使用貸借であり、その他転貸当時の事情に照し、たとい所論農地委員会の承認(又は都道府県知事の許可)を受けず、従つて所論罰則に触れることがあるとしても、同条項にいわゆる信義に反した行為に該当しないと解するのを相当とする。それ故、原判決には所論の違法を認めることはできない。

上告人補助参加人の上告理由について。

本件農地の転貸が農地調整法九条一項にいわゆる信義に反した所為に該当しないことは、上告人の上告理由について説明したとおりである。その他の主張は、結局原判決が適法に認定した事実の認定を非難するか又は本件解約許可処分当時以後の新らたな事情を前提とする主張に帰し、いずれも「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」一号乃至三号のいずれにも該当せず、また、同法にいわゆる「法令の解釈に関する重要な主張を含む」ものとも認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判官 斎藤悠輔 真野毅 岩松三郎)

上告人指定代理人豊水道祐、同岩村弘雄、同久保田衛、同谷尾憲蔵の上告理由

一、民法にあつては、賃借人は、借賃支払義務(六〇一条)、賃借物の保管義務(四〇〇条)、通知義務(六一五条)、用法に従い賃借物を使用する義務(六一六条、五九四条一項)、賃借権を無断譲渡しない義務(六一二条一項)、賃借物を無断転貸しない義務(同項)等を負い、賃借人がこれ等の義務に違反したときは、賃貸人は、賃貸借契約を解除し得ることとしている。しかし、農地調整法第九条第一項は、農地の耕作者を保護するために、農地の賃貸借にあつては右の如き義務の違反があつたのみでは直ちに契約を解除し得ず、さらに、右の如き義務違反の行為が信義に反する行為であるときに限り、契約を解除し得ることとしている。義務違反の行為が右にいう信義に反する行為であるか否かは、個々の場合において具体的に決せられるべきものであるが、一般的にいえば、賃貸借のような継続的権利義務関係にあつては、相互に相手方を信頼してはじめて成り立ち得るものであり、農地の賃貸借にあつても、地主が小作人を信頼してはじめて成り立ち得るものであるのに鑑み、賃借人の義務違反の行為が賃貸人の信頼関係に背き、そのため賃貸人がもはや賃借人を信頼して賃貸借契約を継続させることができないような場合において、その義務違反の行為を信義に反する行為というものと解する。

しかして、右に述べた各種の義務にあつては、その義務の性質上義務違反の行為が必ずしも信義に反する行為とならないことがあるものと、義務違反の行為が当然に信義に反する行為となるものがあり得る。およそ、義務違反の態様には、その義務の履行が可能である場合においても、(1)社会通念上その義務の履行が期待し得ない場合においてその義務を履行しないとき、(2)社会通念上その義務の履行が期待し得るに拘らずその義務を履行しないときとがあり得る。右(1)のような場合、例えば天災による不作のため小作料を滞納した場合の如きは、その義務違反の行為は、信義に反する行為とはいえないのであろう。これに反して、(2)の場合、例えば、小作料を支払う資力があるにも拘らず、小作料を滞納した場合の如きは、その義務違反の行為は、信義に反する行為というべきであろう。しからば、無断転貸をしない義務は、どうであろうか、無断転貸をしないという義務は、賃借人がその義務を履行する意思さえあれば、つねに履行し得るものであり、天災による不作の場合における小作料の滞納の如く、賃借人には義務履行の意思があるにも拘らず、賃借人の意思によつては左右することのできない外部的事由によつてその義務を履行し得ない場合とは異なるものであるから、無断転貸をしないという義務は、つねに社会通念上その履行を期待し得るものである。しかも、無断転貸は、賃借人の転貸借契約締結という積極的行為によつてのみ成立し得るものであるから、この義務違反の行為は、賃借人の故意によつてのみなされるものである。

右の如く無断転貸をしない義務の違反は、その義務の性質上、その履行が社会通念上期待し得るに拘らず、故意にこの義務に違反するものであるから、つねに信義に反するものというべきであろう。

しかも、元来農地の賃貸借にあつては、賃借人の個人的要素を重視し、何人が賃貸借の目的たる農地を耕作するかは、賃貸人の利益に関し重大な関係を有するものであつて、耕作者の如何によつて農地の使用、収益の程度方法を異にし、耕作者によつては地力を減殺し或は農地を荒廃させる恐があるものであるから、賃貸人が賃貸借契約を存続せしめるか否かは、何人が賃貸借の目的たる農地を耕作するかにかかつているものというべく、従つて、無断転貸することは、それ自体信義に反する行為というべきである。

以上述べたように、無断転貸をしない義務の違反は、小作料の支払義務の違反等とは異なり、その性質上当然に信義に反する行為というべきである。

二、上述のように、無断転貸は、つねに信義に反する行為であると考えるが、かりに、百歩譲つて、原判決が前提としておられるように、無断転貸も、つねに信義に反する行為であるとはいいえず、信義に反する行為でない場合があり得るとしても、前述の如く、無断転貸をしない義務の履行は、つねに社会通念上期待し得るものであり、且つ、その義務の違反は故意によるものであること及び農地の賃貸借は個人的要素を重視し、何人が農地を耕作するかは賃貸借契約を存続させるか否かについて賃貸人にとつて重大関心事であることに鑑み、無断転貸は、原則として信義に反する行為というべきである。従つて、無断転貸が信義に反する行為に該当しない場合は、特殊な例外の場合、即ち賃借人が已むことを得ない事情のため無断転貸をし、しかも、これによつて賃貸人が何等の不利益を蒙らないものであつて、この無断転貸を責めることが社会通念上酷であると考えられる場合に限定さるべきである。例えば、賃借人が疾病等により一時耕作することが不可能であるため、已むなく転貸し、しかも、転借人が地力を減殺する恐のない場合等に限定さるべきであつて、耕作者の保護に急なる余り、従らに無断転貸を信義に反する行為にあらずとして、賃貸人の正当な権利の行使を制肘すべきではない。

原判決が本件無断転貸借を信義に反する行為でないと認定された理由は、(1)賃借人である被上告人が訴外田中くに等の食糧難の故を以てする懇望に同情して転貸したこと、(2)本件転貸借が使用貸借であり、賃貸借でないこと、(3)転貸借の目的物は、賃貸借の目的物の半分に満たぬ部分であること、(4)転貸借の期間が昭和二十一年頃から昭和二十三年頃までの間の裏作の期間だけであることの四点にあるようである。しかし、以上の原判決の掲げられた事由は、いずれも前記の無断転貸をするについての已むことを得ない事情とは認め難い。右(1)の事由については、信義則からいえば、他人に対して恩恵を与えるより前に、先づ自己の義務を履行すべきであり、また、訴外人等の食糧難を緩和するには他の方法(例えば、訴外人等に裏作を手伝わせ、報酬として作物を与える等)によることが可能なのであるから、この(1)の事由を以て本件無断転貸を信義に反する行為でないとすることはできない。右(2)の事由は、単に賃借人が中間搾取をしなかつたこと、即ち本件無断転貸借が悪質の義務違反でないという事由に止まり、これを以て本件無断転貸借を信義に反しない行為とすることはできない。更に(3)及び(4)の事由は、直ちに本件無断転貸借が軽微な義務違反であるとの理由となすこともできず、単に高度の義務違反でないという事由に過ぎないものであつて、この事由もまた信義に反する行為でないとする資料とはなし難い。

前記のように無断転貸が信義に反する行為でないとするためには、無断転貸によつて賃貸人が不利益を蒙らなかつたことを要すると解するが、原判決は、本件無断転貸によつて賃貸人が不利益を蒙らなかつたかどうかについて認定をしておられない。却つて、原判決は、転借人である訴外人等が非農家であることを認定されておるが、この事実に徴すれば、農耕の経験のない訴外人等によつて賃貸借の目的たる農地が耕作される結果、本件農地が荒廃され、又はその地力が減殺されることが推認され、本件無断転貸借はこの点においても、信義に反する行為であると推定される。

三、原判決は、本件無断転貸借が農地調整法第四条所定の市町村農地委員会の承認を受けずして行われたものであると認定されながら、しかも信義に反する行為に該当しないとされておる。しかしながら、本件無断転貸は、右承認を受けていない以上、違法な行為であり、しかも、同法第十七条の四に規定する罰則に触るる行為である。農地の賃借人がその賃貸借の目的たる農地について刑罰法規に触れるような義務違反の行為をしたことは、他の点を看過しても、それ自体すでに賃貸人の信頼関係を裏切るものというべきである。従つて、本件無断転貸借は、この点においても信義に反する行為というべきである。

四、以上のように、原判決には、農地調整法第九条第一項の規定の解釈を誤つた違法があるか、又は審理不尽の違法があり、破棄さるべきものと信じ、上告をした次第である。

上告人は、もとより、原判決に対しては十分な敬意を表するものであるが、右に述べたような理由により、にわかに承服しかねる点が多い。従来から無断転貸を理由とする賃貸借契約解除の許可申請は、全国的に多数に上つておるが、行政措置としては、上述のような見解に基き、無断転貸は信義に反する行為と認めて、この理由による許可申請に対しては許可処分をすることが一般であつた。しかるに、原判決は、これに反する見解に出たものであるから、その行政実務上に及ぼす影響は、極めて重大である。従つて、将来も全国的に多数に上るものと思われるこの種の許可申請に対し許否を決するについて、この重要な法令の解釈につき御庁の終局的な御判断を得ることは、是非とも必要なことと思われるので、原判決に対し敢て上告をした次第である。速やかに適正な御判断を得たい。

以上

上告人補助参加人の上告理由

一、乃至三、(上告人指定代理人の上告理由の一、乃至三、と同文につき省略する)

四、以上のように原判決には農地調整法第九条第一項の規定の解釈を誤つた違法があるか又は審理不尽の違法があり破棄さるべきものと信じ上告人は上告した次第である。

上告人はもとより上告人補助参加人は上告人と同趣旨の理由により承服致し難い点が多い。

本件上告に於ては事実の内容は審理せられないのであるが被上告人が本件田地を耕作せしめた原因は元々永久的の賃貸借でない元賃借人であつた天野某が昭和二十年四月下旬頃賃貸借を解約して来たので植付け時期は切迫してゐる時に於て苗を貰ふ斡旋を依頼に行き其の際今に至り苗の斡旋を依頼に来ても本年は到底苗の余裕はないと言つてそれよりか一ケ年間だけ被上告人に耕作させないかとのことで一ケ年で返還する約で耕作せしめたのである。

然る後被上告人は農地調整法施行となつたのでこれをたてにとり返還をせず且つ又被上告人は農耕者として表面上届出でしてはいるが事実上は妻の仕事としてゐて被上告人は賭博を業としてゐて農耕に従事してゐない。

それが故に他の者に裏作をせしめる転貸し賃料は其の代償として田の草取り田うち等をせしめたものであるが第三者をして耕作せしめてゐたものであるというが事実は転貸してゐたものである。

それが為め稲作でなく草田となり全く地力を減殺したのである。

右の点よりしても農地調整法第四条所定の承認もなく又上告人補助参加人の承諾もなく無断に転貸耕作せしめたもので法定の解約事由たる信義違反行為に該当するものである。尚賃料を延納し又昭和二十三年分の賃料について持参したが受領せなかつたと主張するも被上告人の部落は昔から小作争議の高唱の所で事実に反する。

上告人補助参加人の家族は当時三人の成年で八百屋兼古物商を営んでいた点についてであるが八百屋と言つてもりんご其の他果実類を三尺四方位のところにならべて数へる程度を置いてある営業に過ぎない。

古物商といつても店舗もない田舎に月一、二回風呂敷に入れて出る位で古物商ともいえないものであつた。

而して耕作に従事してから古物商営業もやめて耕作に専念してゐる。

本年も六石四斗(十六俵四斗入)も収穫した。

上告人補助参加人は本年三月初め頃に養子を貰つて現在は余力充分である。

尚上告人補助参加人は本件土地の地理的よりしても現地に二丁ない位であり被上告人が耕作すれば当然不便であるので地力の減殺は免れない。

前述の通り事実関係に於ても上告人は充分調査し被上告人が凡ての信義に違反してゐる事実を認めて賃貸借契約解除の許可されたものであるので原判決を破棄し差戻しの上新に再審理をお願するものである。

以上

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