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最高裁判所第一小法廷 昭和27年(あ)4481号 判決 1954年12月02日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人皆川治広、同小野清一郎の上告趣意第一点について。

所論は、原判決並びにこれによって維持された第一審判決は憲法三七条一項の「公平な裁判所の裁判」でない旨主張するが、同条項にいわゆる公平な裁判所の裁判とは、組織、構成において偏頗のおそれのない裁判所の裁判を指すものであることは当裁判所屡次の判例とするところであるから、所論は結局単なる訴訟法違反の主張に過ぎないものというべく、刑訴四〇五条の上告理由に当るものとは認め難い。そして、原一、二審判決は、本件公訴事実を挙示の証拠に基いて認定したものであること明白であるから、予断と偏見とに基いて下されたものということもできない。

同第二点について。

所論は、違憲をいうが、その実質は、原判決の維持した第一審判決が挙示の各証拠によって本件犯罪事実を認めた認定を補強する状況証拠の一つとして掲げた証第一六号の一、二乃至第五六号の各信書の証拠能力を認めたことを非難する単なる訴訟法違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、右各信書は、原判決の説示するごとく刑訴三二三条三号の書面と解するを相当とするばかりでなく、第一審判決は栗木久嘉、同みき子の公判廷における証言により、久嘉が服役中同人から妻きみ子に宛て、また、きみ子から久嘉に宛てた一連の手紙としてその内容を検討し十分信を措くに足りるものと認めたものであって、右両名の第一、二審における証言並びに右手紙の外観、内容等を検討すれば、原判決が詳細に説示したように、その約四十通の手紙の一部に所論のごとき代筆のもの、封筒のないもの、刑務所の検閲印又は受附印のないもの、封筒と中味と喰いちがったもの等があっても、服役者とその妻との間における一連の信書として特に信用すべき情況の下に作成された書面と認定した第一審の判断を正当として是認することができ、経験則その他に違反した違法は認められない。しかのみならず、仮りに、原一、二審における右信書に証拠能力を認めたことが誤りであるとしても、右信書は、前述のごとく、第一審判決が本件犯罪事実認定の補強証拠として引用したものであって、これを除外しても挙示の他の証拠によって判示犯罪事実を認定するに足りる場合であるから、これを以て判決に影響を及ぼすことが明らかである訴訟法違反であるということもできない。それ故、所論は採ることができない。

同第三点、竝びに、弁護人皆川治広、同小野清一郎、同下田勝久の上告趣意補充申立について。

所論は、事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。

弁護人小玉治行の上告趣意について。

所論は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。

弁護人池田克の上告趣意について。

刑訴二二七条、二二八条の規定に基く供述調書は、それ自体では当然証拠能力を持つものではなく、被告人及び弁護人の憲法上の権利を尊重した刑訴三二〇条の規定により同三二一条乃至三二八条に規定する場合においてのみ証拠とすることができるものである。されば、刑訴二二八条二項は憲法三七条二項の規定に違反するものでないことは、既に当裁判所大法廷の判例の趣旨とするところである。(昭和二七年六月一八日大法廷判決判例集六巻六号八〇〇頁以下参照。)そして、本件裁判官の証人福岡春良に対する尋問調書は、所論のごとく、検察官において同証人が所在不明のため公判期日において供述することができないので刑訴三二一条一項一号の書面として証拠調の請求をなしたものであるばかりでなく、被告人の選任した弁護人が第一審の公判廷においてこれを証拠とすることに同意し、被告人等がこれに対し何等異議を申立てなかったものであること記録上明白であるから、同条項一号前段及び同三二六条の規定により証拠能力を有するものであること多言を要しない。されば、所論憲法三四条又は同三七条三項違反の主張はその前提を欠き採用できない。

弁護人下田勝久の上告趣意第一点について。

所論は違憲をいうが、その実質は、原判決の維持した第一審判決が、挙示の各証拠によって本件犯罪事実を認めた認定を補強する状況証拠の一つとして掲げた証第一六号の一、二乃至証第五六号の各信書を刑訴三二三条三号に該当する書面であると判断して証拠調を為し、これを証拠としたことを非難する単なる訴訟法違反の主張に帰し、刑法四〇五条の上告理由に該当しない。そして、該信書は、右刑訴三二三条三号に該当する書面と解するのが相当であり、しかも、本件では判決に影響を及ぼすことが明らかである訴訟法違反があるともいえないことは、皆川、小野両弁護人の上告趣意第二点について説明したとおりである。

同第二点について。

所論各信書が刑訴三二三条三号の書面と解すべきことは前点において説明したとおりである。従って、被告人及び弁護人がその証拠調に不同意と異議とを主張しても証拠とするに妨げないこと多言を要しない。されば、所論引用の判例は本件に適切でなく、所論判例違反の主張はその前提を欠き採用できない。

同第三点について。

所論は判例違反をいうが、第一審判決の証拠とした所論高本徳一の第三回公判廷における証言が所論のごとき証言であることを認むべき証拠がなく、従って、所論はその前提を欠き、採用できない。

同第四点について。

原審における所論申請の証人小西寅松が第一審の弁論終結前に取調を請求することができなかった証拠であることは、原審において疏明されなかったものである。されば、原審がこれを取り調べなかったからといって違法であるということはできない。所論引用の判例は本件に適切でなく、従って、所論判例違反の主張は採用できない。

同第五点について。

所論(一)は、単なる法令違反の主張であり(そして、原判決のこの点に関する判示は正当である。なお、刑訴二二三条二項によって準用される同一九八条一項但書中に「逮捕又は勾留されている場合を除いては」とある明文を参照。)、同(二)及び(一八)は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであり(第一審判決の認定した判示事実中における「殺意」と「殺人の目的」とは同一意義であるこというまでもない。)、同(三)、(四)、(九)、(一〇)、(一二)、(一四)、(二一)、(二三)、(二四)、(二六)及び(八)は、それぞれ単なる訴訟法違反、事実誤認の主張であり、同(五)乃至(八)、(一一)、(一三)、(一五)乃至(一七)、(一九)、(二〇)、(二二)、(二五)、(二七)は、いずれも、事実誤認の主張に帰し、すべて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても、同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって、同四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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