最高裁判所第一小法廷 昭和27年(あ)753号 判決 1953年5月14日
主文
原判決を破棄する。
本件を東京高等裁判所に差戻す。
理由
東京高等検察庁検事長佐藤博の上告趣意について。
原判決が、所論のごとく、要するに外国人登録令に定める登録不申請罪は、所定期間の三〇日を徒過することにより既遂となると同時に犯罪実行々為も終了しその時から公訴の時効は進行するものと判断して、結局被告人に対し免訴の言渡をしたこと、並びに、所論引用の原判決の言渡前になされた各高等裁判所の判決が、要するに所定期間経過後においても登録義務は依然存続しその間犯罪状態が継続し公訴の時効期間はその義務終了の時から進行する旨の判断をしたものであることは所論のとおりである。従って、原判決は、右各高等裁判所の判例と相反する判断をしたものといわなければならない。
そして、昭和二二年五月二日勅令二〇七号外国人登録令は、外国人の入国に関する措置を適切に実施し、且つ外国人に対する諸般の取扱の適正を期することを目的とするものであるから(同令一条参照)、同令附則二項において「この勅令施行の際現に本邦に在留する外国人は、この勅令施行の日から三十日以内に、第四条の規定に準じて登録の申請をしなければならない。」と定めている「三十日以内」というのは、右期間内に限り是非とも登録の申請をなさしむべき特殊の必要があるから、該期間が定められたものではなく、ただ単に右登録申請義務の履行を猶予する期間として定められたに過ぎないものと解すべきである。それ故、その義務は、所定の期間の経過を以て消滅するものではなく、当該外国人が本邦に在留する限り、これを履践するまで継続するものであると認めなければならない。従って、同附則三項によって準用され同令一二条二号の登録不申請罪に対する公訴の時効の進行は、所定期間の経過の時から起算すべきものではなく、その後その義務の履践によって義務が消滅した時を標準として起算するを相当とする。
また、原判決引用の通牒(昭和二四年一一月一日法務府民事局民事甲第二四九一号(六)一五九号法務府民事法務長官、法務府刑政長官連名の各都道府県知事宛未登録外国人の新規登録申請に関する件)は、未登録外国人の新規登録申請あったときは、市区町村長は一応これを受取りおき、退去命令又は退去強制の処分がなされるか否かを見定め、それがなされないで引続き本邦に在留することを許容されたとき正式に申請を受理して登録証明書を発行する簡捷な行政措置を執るよう指示したに止り、未登録外国人の新規登録申請を原則として受理しないことを命じたものとは解されないばかりでなく、かかる通牒を以て前記勅令の登録申請義務を左右することのできないこと多言を要しない。
されば、右通牒により登録申請義務は履行できないものとし、前記のごとく判断した原判決は失当であり、論旨はその理由があって、原判決は、破棄を免れない。
よって、刑訴四一〇条、四一三条本文に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 真野 毅 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)