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最高裁判所第一小法廷 昭和28年(あ)1828号 判決 1960年12月22日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人松尾菊太郎の上告趣意第一点について。

所論は、原判決が、法律の規定によらず又は法律に定める手続によらないで被告人以外の者の所有に属する物を没収したのは、憲法二九条、三一条、三二条に違反し、憲法九八条により無効であるというにあって、要するに他人の所有権を対象として違憲を主張するに帰するものである。

しかし、訴訟において、他人の権利に容喙し、これが救済を求めるが如きことは、本来許されないのであるから、他人の所有権を対象として基本的人権の侵害があるとするような違憲の主張は許されないと解すべきものであることは当裁判所大法廷の判例とするところである(昭和二八年(あ)三〇二六号、同三五年一〇月一九日大法廷判決、昭和二九年(あ)三六五五号、同三五年一〇月一九日大法廷判決各参照)。

されば、本件没収につき所論違憲ありとする論旨は採るを得ない。

同第二点について。

所論は、被告人の本件行為は、旧関税法(昭和二五年四月法律第一一七号による改正以後のもの)七六条一項にいわゆる「輸出」に当らないというのである。

しかし、同条項所定の輸出行為は、海上にあっては、目的の物品を日本領土外に仕向けられた船舶に積載するによって完成するものであることは、当裁判所の判例とするところである(昭和二三年(れ)第四五〇号、同年八月五日第一小法廷判決集二巻九号一一三四頁、昭和二五年(れ)第九四五号、同年九月二八日第一小法廷判決集四巻九号一八二〇頁各参照)。

原判決が適法に確定した事実によれば、「被告人らは共謀の上、香港に貨物を密輸出しようと企て、被告人村雲が山田安夫から広川吉広名義で賃借し、船長として支配占有する機帆船共進丸をこれに使用するため、福岡県大牟田市大字大牟田港に回港させた上、昭和二七年九月一九日頃免許を受けないで、被告人周が同市で入手したカーボンブラック一五瓩入二百袋、亜鉛華二〇瓩入二袋、染料六〇瓩入四缶を同船に積載し、同月二一日午後一一時頃大牟田港を香港に向け出帆し、同港三池製煉所岸壁沖合約二〇米まで航行した」というのであるから、原判決が被告人の右所為を以て前記旧関税法七六条一項に該当するものと判断したのは正当であって、所論違法があるとは認められない。それゆえ論旨は採るを得ない。

被告人周赫の上告趣意について。

所論は要するに事実誤認の主張に帰し(所論調書が強制による自白を録取したものであるとの事実は記録上これを認めがたい)、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

よって同四〇八条により、主文のとおり判決する。

この判決は、弁護人松尾菊太郎の上告趣意第一点に対する裁判官入江俊郎の反対意見あるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。

弁護人松尾菊太郎の上告趣意第一点に対する裁判官入江俊郎の反対意見は、次のとおりである。

わたくしは、多数意見には反対である。所論違憲の主張は刑訴四〇五条の適法な上告理由に該当するものであり、そして本件第三者没収が憲法三一条に違反するものであるとの論旨は、本件没収にかかる機帆船共進丸の所有者山田安夫に対し、事実審の公判廷において、予め告知、聴問の機会を与えていない点において、結局理由あるに帰し、原判決はこの点において破棄、差戻を免れないものと考える。その理由とするところは、当裁判所の昭和二八年(あ)第三〇二六号、同三五年一〇月一九日大法廷判決におけるわたくしの反対意見を引用する。

また所論中、本件第三者所有の船舶の没収が憲法二九条に違反するとの点は、当裁判所の昭和二六年(あ)第一八九七号、同三二年一一月二七日大法廷判決の趣旨に従い、船舶の所有者において、本件犯罪行為が行われることをあらかじめ知っており、その犯罪行為が行われた時から引きつづきこれを所有していた場合に限り没収のなされるものであると解すべきところ、原判決の認定によれば、本件船舶は被告人村雲が山田安夫から広川吉広名義で賃借したものであるというのであり、また、前記山田安夫に対する司法警察員の参考人供述調書その他記録によれば、同人はむしろ善意であったことがうかがわれるけれども、原審の確定した事実関係の下においては、未だこの点に関する審理を尽したものとは認められない。それ故、原判決はこの点において審理不尽を免れず、本件第三者没収が憲法二九条に違反するとの論旨は結局理由あるに帰し、この点においても、破棄、差戻を免れないものと考える。

なお、所論は、憲法三二条違反をいうが、本件第三者没収が執行せられた場合において、右第三者が、これを違憲、違法として没収執行の行政処分に対していわゆる抗告訴訟を提起するか、または、所有権に基づく民事訴訟を提起することは可能であって、原判決は何らこれを否定したものではないから、この点に関する違憲の主張は、前提を欠くものであって、採るを得ない。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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