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最高裁判所第一小法廷 昭和28年(オ)952号 判決 1955年6月02日

主文

原判決を破棄する。

本件を仙台高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人弁護士鈴木義男、同河野太郎の上告理由第一点について。

原判決は、「昭和二六年三月一八日訴外根本忠治と安斉新の両名が借主となつて被控訴人(上告人)から弁済期を同月末日と定めて金一五万円を借受けその際根本忠治は被控訴人と本件物件(訴外根本忠治の所有であつて、同人は訴外安斉新と共にこれを使用して映画館を経営していたことは当事者間に争がない。)を右債務の売渡担保に供することを約し、債務者である根本、安斉の両名が弁済期に右債務の支払をしないときは、本件物件を受戻す権利を失いその所有権は完全に被控訴人に移転し、これにより被控訴人に対する右債務は当然消滅するという趣旨であつた」旨判示したことは、所論のとおりである。

そして、売渡担保契約がなされ債務者が引き続き担保物件を占有している場合には、債務者は占有の改定により爾後債権者のために占有するものであり、従つて債権者はこれによつて占有権を取得するものであると解すべきことは、従来大審院の判例とするところであることも所論のとおりであつて、当裁判所もこの見解を正当であると考える。果して然らば、原判決の認定したところによれば、上告人(被控訴人)は昭和二六年三月一八日の売渡担保契約により本件物件につき所有権と共に間接占有権を取得しその引渡を受けたことによりその所有権の取得を以て第三者である被上告人に対抗することができるようになつたものといわなければならない。しかるに、原判決は、被控訴人(上告人)において占有改定による引渡を了したことを認むべき証拠がなく、被控訴人は右所有権の取得を以て控訴人に対抗し得ないものとし、被控訴人の本訴請求を排斥したのは違法であつて、論旨はその理由あるものというべく、原判決は破棄を免れない。

よつて、爾余の論旨に対し判断を省略し、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 真野毅 裁判官 岩松三郎 裁判官 入江俊郎)

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