最高裁判所第一小法廷 昭和29年(オ)474号 判決
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〔要旨〕(一) 不動産質権の留置的効力は登記がなければこれを第三者に対抗することはできない。
(二) 貸金債権者が質物を占有する場合民法第二九五条の適用については、貸金債権はその質物に関して生じた債権とはいえない。
〔説明〕本件土地建物は被上告人が前主から買い受け所有権を取得したものであるところ、上告人甲、乙及び丙はいずれも無権原でこれを占有しているから、所有権に基きその明渡を求める、というのが被上告人の本訴請求である。上告人らは抗弁として、(イ) 上告人甲は被上告人前主に金を貸し、その貸金債権担保のため右土地建物に質権の設定を受けてその引渡を受け、右質権に基きこれを占有使用しているものである。もつとも右質権につき登記はないが、借家法一条は質権に基く建物使用権にも適用があると解すべきであるから、上告人甲は、右建物の引渡を受けた以上、その質権に基く使用権ひいては建物に附随する本件土地の使用権をも被上告人に対抗しうべきである。また、上告人乙及び丙は、甲から右使用権の範囲内で本件土地を賃借しているのであるから、同人らもその賃借権をもつて被上告人に対抗することができる。
(ロ) 仮に登記がないため質権をもつて対抗することができないとしても、元来上告人甲はその子である上告人乙及び丙に本件土地家屋を使用させるため、被上告人をしてこれに質権を設定させて同人に金を貸したのであるから、右貸金債権は本件土地家屋に関して生じた債権に外ならない。それゆえ右債権の弁済を受けるまで民法二九五条一項により右土地建物に留置権を行使する。と主張した。
原審は、(イ)につき、不動産質権は登記がない以上第三者に対抗できないし、借家法一条は質権に基く建物の使用権には適用がない。また、上告人甲と乙及び丙との間の賃貸借契約は認められない。(ロ)につき、「右消費貸借をなすに至つたのが右不動産に質権を取得しこれを居住のため利用することを目的としてなしたというだけで、右貸金がその物に関して生じた債権ということはできない。」と判示し、被上告人の請求を認容した。
最高裁は、前記(ロ)の主張をくり返した上告理由に対し、次のように判示した。
「質権者は、債権の弁済を受けるまで質物を留置することができる。しかし不動産質権は、これを登記しなければ第三者に対抗することはできないから(民法一七七条)、質権の一作用である質物を留置することをうる効力も、登記なき限り第三者に対抗することをえないのは当然である。そして本件貸金が本件不動産に関して生じた債権ということはできないから、留置権を認めなかつた原判決は正当である。」
質権の留置的効力といえども、不動産質の場合は登記によつて始めて第三者対抗力を具えるものと解すべきことは、民法一七七条の原則上疑問の余地がない。上告理由はこの点に触れなかつたが、もし原審における右と反対の上告人の主張が正しければ原判決主文は違法となるから、本判決はその然らざることを念のため明らかにしたのであろう。また民法二九五条にいう「其物ニ関シテ生シタル債権」とは、その用語だけからいえばいくらでも広く解釈することができようが、留置権制度本来の目的と留置権が物権で何人に対してもこれを主張できることとから自ら制約を受けるべきであつて、上告人の主張が採りえないことは明らかである。なおもし上告人の主張どおりとすれば、不動産質権者は登記がなくても留置的効力を第三者に対抗できると同一の結果になり、民法一七七条の原則はその限りで無視されるし、また不動産質権の留置的効力の制約を定めた民法三四七条但書の如きも無意味に帰せざるをえないから、これらの点からも所論の誤りは明瞭といえよう。
(青山調査官)