最高裁判所第一小法廷 昭和30年(あ)971号 判決 1958年4月10日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人大西文雄の弁護人前堀政幸の上告受理申立理由について。
原判決は、第一審判決の確定した「被告人等(被告人大西文雄、同川本達雄)は、共謀の上、真正な製造たばこ「光」の外箱と同様な図柄および「日本専売公社」なる文字その他所要の事項を印刷して製造したたばこの外箱」について、これを以て右公社の製造にかかる製造たばこ「光」すなわち合法的な専売品であることを証明する意思を表示した図画であると解するを相当とし、所論のような美術的効果を否定できないとしても、単にそれだけのものに過ぎないということができないから、この点よりして刑法一五五条一項の図面に当らないとする所論は採用することができないと判断したこと、並びに、たばこ専売法七一条一号、六五条の二の法条は、公文書の真正に対する公の信用を保護しようとする刑法一五五条とその目的を異にし、その取締の対象となる行為の範囲が同一でないから、たばこ専売法の右規定に該当するの故を以て刑法一五五条の適用がないということは許されないのみならず、また右規定の施行前においては刑法一五五条一項による取締のらち外に放任されていたものということもできないと判示したことは、いずれも、所論のとおりである。そして、当裁判所は、右原判決の判断を正当と認める(この点に関し郵便切手すなわち郵政大臣の発行する郵便に関する料金をあらわす証票又は収入印紙すなわち帝国政府の発行する印紙金額を表彰すべき証票のごとき特種の文書の偽造、変造等と同一に論ずることはできない。)。されば、所論申立理由(一)は、採用できない。
そして、右のごとく前記たばこ専売法の法条と刑法一五五条とは、その目的と取締の対象となる行為の範囲とを異にし、両者の適用が併存を妨げないと解するを正当とする以上、前者が後者の後ちに制定されたからといって、刑法六条の問題を生ずることのないこともいうまでもない。それ故、所論(二)も採用できない。
同弁護人の上告理由について。
所論は、事実誤認、量刑不当の主張を出でないものであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また、記録を調べても、同四一一条二号、三号を適用すべきものとは認められない。
被告人川本達雄の弁護人吉川信太郎の上告趣意について。
所論の採るを得ないことは、前堀弁護人の上告受理申立理由について述べたとおりである。
よって、刑訴四〇八条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 真野毅 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)