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最高裁判所第一小法廷 昭和31年(オ)368号 判決 1958年11月06日

主文

原判決を破棄する。

本件を福岡高等裁判所に差し戻す。

理由

上告人代理人弁護士菅野虎雄の上告理由第一点について。

しかし、所論被上告人が契約当時の代金そのものをもつて売買の履行を求めるのは信義誠実の原則に違反し無効である旨の主張、並びに、所論予約者に契約解除権発生し上告人においてこれが解除権を行使した旨の主張は、いずれも、原審で主張しなかつたことが明らかであるから、原判決がこれに触れなかつたからといつて、原判決に所論の違法があるとはいえない。それ故、論旨は採るを得ない。

同第二点について。

原判決が「本件は、単純な再売買一方の予約ではなくして、債務が弁済された場合に売渡担保物の所有権を債権者から債務者に復帰させる方法として再売買の予約の形式が踏まれたものであることは、原判決(第一審判決)の説示のとおりであるから、本件貸金債務の弁済期限が到来する迄は、右債務を弁済して予約完結権を行使し得べく、したがつて弁済期が延長せられれば予約完結権の行使の期間も延長せられ、債務の履行期限と予約完結権行使の期間とを一致させる約旨のものであつたといわなければならない。」と判示して控訴人らの時効の抗弁を排斥したことは、所論のとおりである。しかし、消滅時効は、権利を行使し得るときより進行するものであつて、その権利の行使につき特に始期を定め、又は、停止条件を附したものでない限りは、その権利成立の時より行使し得べきものであるから、消滅時効もまたその時より進行するものと解するを相当とする。しかるに、原判決の前記判示は、当事者が同判示の予約完結権の行使につき特に始期を定め又は停止条件を附した約束をした趣旨の判示とは解することができない。されば、原判示の予約完結権は、その予約完結権成立の時より行使し得べき筋合であるから、原判決の理由だけでたやすく控訴人らの時効の抗弁を排斥したのは失当であるといわなければならない。従つて、論旨は、結局その理由があつて、原判決は、破棄を免れない。そして、被上告人は原審で時効中断等の主張をしているのであるから、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

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