最高裁判所第一小法廷 昭和32年(あ)1531号 判決 1958年3月06日
主文
本件上告を棄却する。
理由
被告人等弁護人東中光雄の上告趣意第一点について
被告人夫子浩の所論各自白が拘禁後所論の日数を経過した後のものであることは記録によって明らかであるが、その間の拘禁が所論にいわゆる「たらい回し」の拘禁に当らないことは原判決説示のとおりであり、また、記録によって認められる本事案の性質、関係者の多数なること、これが取調の容易でなかったこと等の事実に鑑みるときは右自白が不当に長く拘禁された後の自白とは断じ難い(昭和二二年(れ)第三〇号同二三年二月六日大法廷判決集二巻二号一七頁参照)。次に被告人夫子浩、同牟昌善、同柳志浩に対する検察官または司法警察職員等の取調に所論のような強制脅迫強要等の事実のなかったことは一件記録(特に第一審第六回公判調書参照)によって明瞭であり、そして右検察官等の作成した所論各供述調書の形式内容等を吟味してみても所論各供述に任意性を疑うに足るべき事跡は認められない。
従って所論各違憲の主張はいずれも採るを得ない。
同第二点について
しかし、所論各調書については、特段の事情なき限り相被告人との関係においてもまた証拠申請および証拠調がなされたものと解するを相当とし、なお被告人等は本件公訴事実を全面的に否認しているばかりでなく、仮に所論各調書の証拠調に所論のような「かし」があったとしても、第一審裁判所は右に関し原判示のような手続を採っているのであるから右かしは治癒され、従って所論各調書は適法な証拠調を経由したものと解するを相当としこれと同趣旨に出た原判決の判断は正当である。されば所論違憲の主張も前提を欠き採るを得ない。
同第三、四点について
所論は単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであっていずれも刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
よって刑訴四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎)