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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)225号 判決 1959年11月26日

主文

原判決中「控訴人のその余の請求を棄却する」との部分を除きその他を破棄する。

本件を広島高等裁判所岡山支部に差戻す。

理由

上告代理人弁護士山村利宰平の上告理由第五点について。

原判決が上告人に本件債務不履行の責任ありとする理由はいささか明確を欠くが、その要点は次の如き趣旨に帰するものと考える。すなわち、本件売買契約に基づき上告人のなすべき所有権移転登記手続については、甲第一号証の契約証を以て残代金五二万円の支払をうけてからこれをなすべき特約であり、この特約は被上告人主張の如き内容に変更された事実はなく、従つて被上告人は先ず右残代金の支払をなすべきであつたのに、右残代金の内二〇万円を支払つただけで残金三二万円を支払わず、されば上告人としては右登記手続に関する限り債務不履行の責を問わるべき筋合はないが、一方上告人はすでに売主側に引き渡していた本件売買契約の目的物件である判示つる湯をその事実上の占有者であつた白井某から引渡をうけ、爾来自らこれを経営していたのであるから、この点において本件債務不履行の責を免れないものであるというのである。しかるに、他方原判決の説くところによれば、上告人と被上告人との間には原判示の如き事情があり、上告人は被上告人の態度に対し契約の解消を願うことも無理からぬ程の不信の念を抱いており、被上告人としては社会生活上非難されても余儀ないような事情があつたというのであり、この点に関する原判決認定の事実と上告人において前示登記手続義務に関する限り債務不履行の責がなかつたという原判決の前示判断の基礎となつた判示認定事実とに鑑みて勘考すれば、他に首肯するに足る何らかの事実の附け加えられない限りは、上告人に原判決云うが如き債務不履行の責あるものとは即断できないと解するを相当とすべきであり、むしろ原判決認定のような事情のままでは、上告人が債務の履行をしていないことについて上告人に正当の理由があつたものと解するの余地なきにしもあらずとすら考えられるのである。

してみれば、原判決は叙上の点に関し審理不尽、理由不備の欠陥を蔵するものと云うの外なく、所論は結局理由あるに帰し、原判決は、爾余の論点に対する審究をまつまでもなく、この点において到底破棄を免れないものと認めざるを得ない。よつて、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

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