最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)43号 判決 1958年3月13日
東京都台東区入谷町二二五番地
上告人
財団法人ニユースタイル女学院
右代表者理事
阿部国明
右訴訟代理人弁護士
倉石亮平
同都文京区駒込千駄木町二九八番地
被上告人
伴道義
右当事者間の請求異議事件について、東京高等裁判所が昭和三一年一〇月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士倉石亮平の上告理由第一点について。
しかし、所論の主張は、原審においてなされたものとは認められないから、原審がその点に触れなかつたからといつて、所論の違法があるとはいえない。
同第二点について。
しかし、原判決は、所論のいわゆる執行約款をも含めた本件公正証書記載の特約事項については、本件公正証書作成前予め控訴人(上告人)の諒解を得ていたものであり、また、委任者の責任を加重しない限度において既に委任者が負担している債務の弁済についてその履行の方法を定めるため相手方に代理人の選任を一任したものであるから、かかる契約は、民法一〇八条の規定の趣旨に反するものでない旨を判示したものである。そして、原判決の適法に確定した事実関係の下における右の判断は正当であつて、所論の違法は認められない。(なお、民事判例集五巻七号三六七頁以下第二小法廷判決参照)
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)
昭和三二年(オ)第四三号
上告人 財団法人ニユースタィル女学院
被上告人 伴道義
上告人代理人倉石亮平の上告理由
第一点 上告人は原審控訴理由に於て本件公正証書は昭和二十九年九月二十四日作成(甲第一号証)したものであるに拘らず弁済期限を同年同月三日と定め債務不履行の場合は通知催告を要せず期限の利益を失い即時債務を完済することと規定し債務者の利益の為めに存ずべき期限を殊更に債権者のみの利益に定め且強制執行受諾条項を附してあるから斯かる公正証書は即時執行の為めに作成されたもので無效であると主張したのであるが原審に於ては更にこの点に触れず右主張を排斥し本件公正証書を有效と認定したのは理由不備の違法がある。
第二点 原審に於ては
『本件公正証書作成に控訴人の代理人として関与した訴外小泉外次郎は控訴人自ら選任したものでなく本件公正証書による契約の当事者である被控訴人において選任したものであることは前段認定のとおりであるけれども云々』
『原審並びに当審証人伴久守の証言によれば本件公正証書作成のために使用された前記委任状には弁済期利息期限後の損害金の利率等の特約事項が記入されているがこれ等特約事項は本件公正証書作成前予め控訴人の諒解を得ていたものであることを認めることができる原審並びに当審における控訴人代表者の供述中右認定に反する部分は信用することができない』
と認定せられているけれども仮りに弁済期利息期限後の損害金の利率等の特約事項が本件公正証書作成前予め上告人る諒解を得てあつたとしても右約款の定める金銭債務不履行に基き直に強制執行を受くべきことを公正証書にその旨録取せられたときは直に債権者の為めに強制執行による権利保護請求権を発生せしむるが故に斯かる執行約款の附加を認諾する行為は訴訟行為に外ならず従つて当事者の一方が相手方の委任を受け任意に契約条項を決定し之に執行約款を附加し得べき権限を有する代理人を相手方の名において選任するが如きは固より之を許さず、斯かる選任による代理権の授与従つてその代理行為は当然無效と解するを相当とする。
公証人の作成する文書は同法その他の法律の定むる要件を具備するに非ざれば公正の效力を有しないのである(公証人法第二条)前記の通り本件公正証書は民法及び民事訴訟法の定むる要件を無視して作成されたに拘らず原審が上告人の本訴異議を排斥したのは公正証書の執行力に関する法則の適用を誤りたるものにて審理不尽理由不備の違法があると信するにつき本申立に及ぶ次第である。
以上