最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)74号 判決 1958年3月06日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士萩原貴光の上告理由一について。
しかし、登記名義人は、真正の所有者に対し、その所有権の公示に協力すべき義務あることは、当裁判所の判例とするところである(民事判例集九巻九号一〇〇二頁以下第三小法廷判決同一一巻五号八四三頁以下当法廷判決参照)。されば、原判決が本件家屋が被控訴人の所有であることは前認定のとおりであるので、被控訴人は控訴人に対し被控訴人への本件家屋の所有権移転登記を求めうるものと解すべきにより、被控訴人のこの点の請求は正当でこれを容認すべきものといわざるを得ないと判断したのは正当であつて、原判決には所論の違法は認められない。
同二について。
原判決挙示の証拠並びにその証拠判断によれば、乙第三号証(甲第一二号証に同じ)の契約の趣旨並びに同号証の証明力に関する原判決の判断を首肯することができ、所論の違法は認められない。
同三について。
しかし、原判決挙示の証拠並びにその証拠判断によれば、所論原判決理由第三冒頭の判示を肯認することができる。そして、原判決は、本件家屋中二棟完成の時期を明確にしなかつたことは所論のとおりであるが、これを明確にしなかつたからといつて、本訴請求に影響を及ぼすべきものでないことも明白である。されば、所論は採るを得ない。
同四、五、七、八について。
原判決挙示の証拠並びにその証拠判断によれば、原判決が結局「被控訴人は昭和十六年三月十七日本件家屋の建築届をなし、その建築工事を工費金二万円にて末治に請負わしめ、末治は昭和十六年十一月頃までに本件家屋のうち三棟を、つづいて他の二棟を完成するに至つたが、被控訴人は本件家屋の完成に先立ち、本件家屋の所有名義を末治に移し、その所有権を確保するため末治との間に、被控訴人の請求により何時にても名義を被控訴人に移転する旨の甲第十二号証の契約書を作成し、昭和十六年十二月一日約定の金二万円のほか金二千三十円を支払つて請負報酬を完済し、末治に本件家屋の所有名義を移すと共に本件家屋の管理、本件家屋の敷地の地代の支払並びに本件家屋の税金の納入などの事務を委託し、末治は本件家屋完成後自己名義で新築届をなし、昭和十七年三月一日から自己名義で前記敷地を賃借し、以来本件家屋の賃貸、賃料の取立、地代の支払、税金の納入などをなし、同人死亡後は控訴人及びその母百本綾子においてこれに当つて来たことを認めるのほかないので、右認定と抵触する前記一掲記の供述はいずれも措信し難く、また、前記二掲記の証拠をもつては、右認定を覆し控訴人の主張事実を認めるに足りないものというほかなく、他に控訴人主張事実を認める証拠がない。然らば、被控訴人の依頼によつて末治が本件家屋の建築工事を請負い、これに着手したことは前記のごとく当事者間に争なく、被控訴人から請負報酬の支払を得て末治が建築工事を進行しこれを完成させたことは前認定のとおりであるので、本件家屋は、その完成とともに被控訴人の所有となつたものといわねばならない」旨の判示をしたことは、これを正当として是認することができる。されば、所論五、七は、原審が適法になした事実認定を非難するか又は原判決に影響を及ぼさない法令違背を主張するものであり、論旨四、八は、原審が適法になした事実認定を非難するか又は原審の裁量に属する証拠の取捨、判断を非難するに帰し、いずれも、採用することができない。
同六について。
原判決が、理由第二の六において、所論摘録のごとく結局この事実によれば、当時本件家屋が被控訴人の所有に属し末治及び控訴人において本件家屋を管理していたことを認めるほかない旨判示したこと、並びに、右判示中に「成立に争のない甲第十七号証によれば、昭和十九年九月末治が前記江古田町所在の家屋及び本件家屋につき賃料を取り立て、被控訴人から金一円三十七銭を受取りこれを合算して右江古田町所在の家屋の税金を支払つていること」が認められる旨判示したこと、および、同号証に対する上告人の認否は、「欄外鉛筆書き部分の成立は不知、その余の部分の成立は認める」というにあつたことは、所論のとおりである。従つて、原判決が甲第十七号証の欄外鉛筆書の部分の成立につき証拠によりこれを認めた理由を示すことなく漫然その全部につき成立に争のないものと判示したのは違法であり、従つて、昭和一九年九月における末治の前示賃料の取立、税金の支払等に関する判示は、適法な証拠に基かない認定であるといわなければならない。しかし、右の認定事実を除外した爾余の事実は、その挙示の証拠によりこれを肯認することができ、かつ、その爾余の認定事実により当時本件家屋が被控訴人の所有に属し末治及び控訴人において本件家屋を管理していたことを認定することができるから、右の違法に関する所論は、民訴三九四条にいわゆる判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背の主張に当らないものというべく、その余の論旨は、原審が適法になした事実認定又は証拠の取捨、判断を非難するに帰し、すべて、採るを得ない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)