最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)851号 判決 1962年12月13日
判 決
上告人
長野罐詰興業株式会社
右代表者代表取締役
山口慶蔵
右訴訟代理人弁護士
西山俊彦
同
岡田実五郎
同
佐々木熈
被上告人
カメヤ食品株式会社
右代表者代表取締役
辻本鉄治郎
右当事者間の売掛代金請求事件について、大阪高等裁判所が昭和三二年五月二八日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告申立があつた。よつて当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人岡田実五郎、同佐々木熈の上告理由第一点について。
しかし、原判決によれば、上告会社が本件約束手形を振出した当時は、該手形に支払場所として指定されていた八二銀行東京支店と上告会社との間には、全然取引関係がなかつた旨判示しているのであり、右原審の事実認定は、挙示の証拠に照らし首肯し得るから、たとえ同銀行支店と上告会社との間に、曾て所論のような取引があつたとしても、いつからその取引がなくなつたかという如き事実の認定は、少くとも本件の場合、その必要をみないこと明らかであり、その余の所論は、ひつきよう原審が適法にした証拠の取捨判断及び事実認定の非難に帰するから採るを得ない。
同第二点及び上告代理人佐々木熈の上告理由第一、二点について。
しかし、原判決が、被上告会社に対する上告会社の所論不信性を認めたのは、直接に、上告会社が被上告会社の本件手形の交換または即金払いの要求に応ずべき義務があるのに、この義務に違背したからというのではなく、本件のような継続的供給契約は、契約の性質に鑑み、当事者双互の信頼関係に基づいて成立するものであり、かつ実行されるべきものであるから、取引の実行に当つては、互に相手方の信頼を裏切らないことが要請されるところ、上告会社は、たとえ代金の支払方法として自己振出の約束手形を交付する約定であつたにもせよ、期日に不渡となる危険が予想されるような、また、手形本来の経済的作用である流通性や換金性に乏しいため支払方法として使用するに適しないような、取引関係のない銀行を支払場所とする約束手形を振出し、交付し、あまつさえ上告会社の代金支払能力に不安を抱いた被上告会社から、再三、割引容易な手形とそれとの交換または現金払いの交渉を受けながら、これを回避して、誠実を以て右交渉に応じる態度を示さなかつた点を重視したのであつて、しかも、右の如き不信性は、決して所論の如く些細なことではないのであるから、原判決が、右の如き上告会社の不信行為を理由とし、かかる場合、被上告会社は適法に爾後の納品を拒否し得る旨の判断をしたのは、必ずしも妥当を欠くものということはできない。所論引用の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。
所論は、ひつきよう独自の見解に立つて、原判決に所論違法ある如く主張するに帰し、採るを得ない。
よつて、民訴三九六条、三八四条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
最高裁判所第一小法廷
裁判長裁判官 高 木 常 七
裁判官 入 江 俊 郎
裁判官 下飯坂 潤 夫
裁判官 斎 藤 朔 郎
上告代理人佐々木熈の上告理由≪省略≫