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最高裁判所第一小法廷 昭和32年(オ)922号 判決 1960年4月14日

主文

原判決中上告人敗訴の部分を破棄し、第一審判決を取り消す。

被上告人らの上告人に対する本訴請求を棄却する。

被上告人ら上告人間の訴訟費用は第一、第二、第三審を通じて被上告人らの負担とする。

理由

上告代理人弁護士鍛治利一、同島内賀喜太名義の上告理由第一点、第二点、第一二点について。

原判決が論旨第一点摘示のごとく認定判示して上告人(控訴人、被告)を民法七一五条二項にいわゆる使用者に代つて事業を監督する者に該当するものとし、本訴請求を認容したことは所論のとおりである。そして、同条項にいわゆる「使用者ニ代ハリテ事業ヲ監督スル者」とは、客観的に観察して、実際上現実に使用者に代つて事業を監督する地位にある者を指称するものと解すべきことも所論のとおりである。しかるに、原判決の確定したところによれば、上告人は、昭和二六年一一月四日控訴人牟岐線通運株式会社との間に判示のごとき内容の契約を締結し訴外門条光を運転手として雇い入れ、控訴会社の名義を使用して本件貨物自動車により運送営業を開始したところ、開始後約一ケ月にて相当の赤字が出たため事業を廃上する決意をして判示のごとく本件自動車を門条に売却して契約上の地位を事実上門条に承継させ、門条が判示のごとく単独で事業主兼運転手として本件貨物自動車による運送事業を控訴会社名義で経営し、門条は、昭和二七年一月九日控訴会社より運転手の辞令の交付を受け控訴会社の指図による貨物運送をなすと共に自ら貨物運送の委託を受けて運送事業をなし、日々の運送事務の内容は日報で控訴会社に報告し本件昭和二八年三月二九日の事故まで事実上判示契約上の地位を門条に承継させていたものであり、一方控訴人鎌田は判示のごとく本件貨物自動車を門条に売り渡し自ら運送事業より手を引くことになつたので、控訴会社に対し控訴会社との間の判示契約における契約者の名義を右門条に切替えて貰いたい旨申し出たのであるが控訴会社側は運転手である門条との間に前示契約を締結することは都合が悪いからとて右申出を拒絶し控訴人鎌田と控訴会社との間の契約は本件事故発生当時まで存続しており、そして、本件事故は、当時たまたま門条が病気していたため同人が臨時に笠井正晴を運転手に雇い入れ雇入後三日目に笠井正晴が惹起したものであるというのである。

以上原判決の確定した事実関係によれば、客観的に見て上告人は、控訴会社又は門条光に代つて、門条光又は笠井正晴を事実上監督すべき地位にいなかつたことは明白であるといわなければならない。果たして然らば、論旨は、その理由があつて、原判決は破棄、第一審判決は取消を免れないし、また、被上告人らの上告人に対する本訴請求は、既にこの点で排斥を免れない。

よつて、爾余の論旨に対する判断を省略し、民訴四〇八条、三九六条、三八六条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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