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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(あ)2082号 判決 1960年12月08日

判  決

被告

草野直子

外一〇四名

右に対する各頭書被告事件について、昭和三三年六月三〇日および同年七月一日仙台高等裁判所が言渡した判決に対し、被告人らの原審弁護人および被告人鈴木光雄、同佐藤進、同阿部浩三、同中村中同中村堅作、同平栗好男、同桜庭尚康から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人草野直子外八三名の弁護人竹沢哲夫外三一名の上告趣意第一点について。

所論は、要するに、原判決は無罪の一審判決を破棄して自判によつて有罪判決を言い渡した結果、被告人の有する憲法上の権利たる上訴権(憲法三二条、同七六条一項、同八一条、刑訴法三五一条一項、同四〇〇条)を奪つた違法(控訴裁判所が原判決を破棄する場合は必ず事件を原裁判所に差し戻し、又はこれと同等の他の裁判所に移送し、被告人に対する有罪事実の認定、刑の量定、法令の適用等は必ず差戻又は移送をうけた第一審裁判所でなすべきものとすることによつて被告人の上訴権行使を可能ならしめなければならず、控訴裁判所が破棄自判によつて有罪とすることによつて被告人の上訴権を侵害、剥奪することは絶対に許されないものとしなければならない)があり、その結果憲法一四条にも反した違法があるというに帰する。

しかし、憲法は、審級制度を如何にすべきかについては憲法八一条所定以外何ら規定するところがないから、同条所定の事項以外の点については立法をもつて適宜にこれを定むべきものであり、従つて、事実審査を第二審限りとしても憲法違反なりとすることができないことは、夙に当裁判所大法廷判決の趣旨とするところである(判例集二巻三号一七五頁以下参照)。また、刑訴四〇〇条但書の規定は、控訴審がみずから事実の取調をするにおいては、一審の無罪判決を破棄して有罪となしうる趣旨であつて、この場合には被告人の有する憲法三一条、三七条の保障する権利を害せず、直接審理主義、口頭弁論主義の原則を害するものでないことは、これまた当裁判所大法廷の判例の趣旨とするところである(昭和三一年七月一八日大法廷判決、判例集一〇巻七号一一四七頁以下、同年九月二六日大法廷判決、判例集一〇巻九号一三九一頁以下参照)。されば、本件のごとき場合(後記論旨第三点についての判断参照)所論理由に基く主張およびこれを前提とする憲法一四条違反の論旨は、いずれも採ることができない。

同第二点について。

所論は、結局、原判決は、事実の取調をなしたか否かにかかわりなく、一審無罪の判決を破棄自判の上有罪とした点において、被告人の憲法三一条、三七条による諸権利を害し、直接審理主義、口頭弁論主義の原則を害し、刑訴法四〇〇条の解釈を誤り、憲法一四条に反して差別的取扱を強い、憲法七六条三項に反して良心に従わない裁判官によつてなされた各違法があるというに帰する。

しかし、刑訴四〇〇条但書の規定は、控訴審がみずから事実の取調をするにおいては、一審の無罪の判決を破棄して有罪となしうる趣旨であつて、この場合には被告人の有する憲法三一条、三七条の保障する権利を害せず、直接審理主義、口頭弁論主義の原則を害しないことは当裁判所大法廷判例の趣旨とするところであることは、論旨第一点について述べたとおりである。されば、この点に関する所論は、独自の見解というのほかなく、採るを得ないし、また、所論憲法一四条違反の主張もその前提を欠くものであつて、採ることを得ない。なお、憲法七六条三項にいう裁判官が良心に従うとは、裁判官が有形、無形の外部の圧迫ないし誘惑に屈しないで、自己の内心の良識と道徳感に従う意味であることは当裁判所大法廷の判例(判例集二巻一二号一五六九頁、一一巻三号一〇一三頁)とするところ、原判決が右のごとき良心に反してなされたものと認むべき資料がないから、この点に関する所論も採用できない。

同第三点について。

所論は、結局、原判決は、被告人の保有する憲法三一条、三七条の権利を害し、直接審理主義、口頭弁論主義の原則を害し、刑訴法四〇〇条但書の解釈を誤り、最高裁判所大法廷の判例に反した違法があり、かつ、憲法七六条三項に違反するというに帰する。

しかし、原判決が被告人の保有する憲法三一条、三七条の権利を害せず、かつ、直接審理主義、口頭弁論主義の原則にも反せず、また、刑訴法四〇〇条但書の解釈を誤つたものでもないことは、論旨第一、二点について述べたとおりである。

次に、判例違反をいうが、原判決の訴訟手続は、所論判例に適合し毫もこれに違反するものとは認められない。なお、憲法七六条三項違反の主張を採り得ないことは、論旨第二点について述べたとおりである。

そして、原審は本件につき一〇回にわたる各公判期日毎に全被告人およびその弁護人に対して適式の召喚をなしており、かつ、全被告人の弁護人および出頭した被告人ら立会の上、証人十数名の尋問(なお、記録によれば原審では被告人側は全然証人尋問の請求をしていない)、並びに、検察官および弁護人申請の合計三十数ケ所の検証等自ら事実の取調をした上、第一審裁判所において取り調べた証拠のほか、自らなした取調の結果をも資料として(この点について後記論旨第四点第一についての判断参照)、騒擾等につき無罪を言い渡した第一審判決を破棄して、更に、自ら判決をしたものであること記録上明白であるから、本件につき刑訴四一一条一号を適用すべきものとは認められない(なお、被告人阿久津成正については、銃砲等所持禁止令違反により第一審は有罪の言渡をなし、原審は控訴棄却の判決をしたものであるから、同人についての論旨第一点ないし第三点の所論は、すべて、その前提を欠くもので採るを得ない)。

同第四点について。

所論第一は、憲法三一条、三七条違反をいうが、その実質は、単なる訴訟法違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、控訴審が事実の取調をなし、第一審の無罪判決を破棄して有罪を認定するにあたつては、第一審において取り調べた証拠は控訴審で再び証拠調をし直すことを必要とせずそのまま証拠能力を認めて判決の基礎とすることができることは、当裁判所の判例とするところであり(判例集一三巻二号一〇一頁以下第二小法廷判決参照)、また、控訴審が事実の取調をした以上、第一審の無罪判決を破棄して有罪を認定するに当り、第一審において取り調べた証拠のみを挙示することは、なんら違法でないことも、当法廷の判例とするところであること(判例集一二巻二号二六九頁以下当法廷判決参照)に鑑みれば、所論の訴訟法違反も認められない。

所論第二は、集団行動の権利の侵害(憲法二一条、二八条違反)をいうが、その実質は、原判決の事実誤認、単なる法令違反を主張し、原判決の判示に副わない事実関係を前提とする違憲の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、原判決の確定した事実関係の下では、所論集団行動の権利の侵害ありといえないことは、当裁判所大法廷がしばしば判示したところに徴し明らかである(憲法二一条に関し民事判例集一〇巻七号七八五頁以下、刑事判例集一一巻三号九九七頁以下、昭和三五年(あ)一一二号同年七月二〇日言渡各大法廷判決参照、憲法二八条に関し判例集三巻六号七七二頁以下、四巻一一号二二五頁以下、四巻一〇号二〇一二頁以下、一一巻二号八〇二頁以下、一二巻八号一六九四頁以下各大法廷判決参照)。

所論第三は、単なる訴訟法違反、事実誤認の主張を出でないものであり、同第四は、違憲をいうが実質は単なる法令違反の主張に帰し、いずれも、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(なお、法令違反の主張については、後記上告趣意第八点ないし第一〇点についての判断参照)。

同第五点について。

所論は、単なる訴訟法違反、事実誤認並びにこれらを前提として違憲又は違法を主張するものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、原判決挙示の証拠によれば、原審の事実認定を肯認することができるから、本件につき同四一一条一号、三号を適用すべきものとは認められない。

同第六点について。

所論は、憲法九九条違反をいうが、原判決の判示に副わない独自の見解(すなわち、原判決は、警察側の犯罪に味方して、人民に敵対し、検察官の不当な政治的な弾圧意図に加担して、被告人らの正当な行為を処罰するものである旨の主張)を前提とするものであるから、採ることができない。

同第七点について。

所論は、原判決の事実誤認、単なる法令違反をいう点もあるが、その余は結局要するに、刑法一〇六条の騒擾罪の規定は、支配階級の利益を守るために、被支配階級の大衆運動を弾圧するための刑罰法規として運用されて来たものであつて、その構成要件は、いずれも瞹眛で、客観的な厳密性は少しもなく、同条を適用する裁判官の主観によつて著しく左右されるから、同条は、憲法三一条に違反する違憲、無効の法規であるというに帰する。

しかし、事実誤認、単なる法令違反をいう点が刑訴四〇五条の上告理由に当らないことは、すでに、しばしば判示したところであり、また、刑法一〇六条の騒擾罪の規定が支配階級の利益を守るために、被支配階級の大衆運動を弾圧するための刑罰法規として運用されて来たものでないことは、大審院の示した従来の判例中の事案(例えば、明治四四年(れ)一五三一号同年九月二五日宣告同院判決録一七輯一五五〇頁以下判決、大正四年(れ)一五〇九号同年一一月六日宣告同録二一輯一八九七頁以下判決、大正一一年(れ)九一三号同年一二月一一日宣告同院判例集一巻七四一頁以下判決、大正一五年(れ)一六二五号昭和二年三月四日宣告同判例集六巻六七頁以下判決、昭和二年(れ)一二三九号同年一〇月二七日宣告判決、同年(れ)一一八八号同年一二月八日宣告判例集六巻四七六頁以下判決参照)ことに当裁判所の判例の事案(昭和二六年(れ)九〇八号同二八年五月二一日第一小法廷判決、判例集七巻五号一〇五三頁以下、昭和二八年(あ)五六〇四号同二九年七月一六日第二小法廷判決、判例集八巻七号一一六九頁以下参照)に徴し明白である。

そして、刑法一〇六条は、

「多衆聚合シテ暴行又ハ脅迫ヲ為シタル者ハ騒擾ノ罪ト為シ左ノ区別ニ従テ処断ス」

一、首魁ハ一年以上十年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

二、他人ヲ指揮シ又ハ他人ニ卒先シテ勢ヲ助ケタル者ハ六月以上七年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス

三、附和随行シタル者ハ五十円以下ノ罰金ニ処ス」

と規定され、その犯罪の構成要件とこれに対する法定刑とは厳格に規定され、ことに犯罪の構成要件は文義上明確であり、かつ、裁判官は、同法条と同条につき従来なされた多数の判例とに従い法律を適用するものであつて、裁判官の主観によつて著しく左右されるものでないから、所論違憲の主張は、その前提を欠き採ることができない。

同第八点ないし第一〇点について、

同第八点は、違憲をいう点もあるが、実質は、事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。同第九点は、違憲をいうが、その実質は、単なる法令違反の主張であつて、同条の上告理由に当らないし、また、判例違反をいうが、原判決は、所論判例と相反する判断をしていない。同第一〇点は、違憲をいうが、実質は、単なる法令違反の主張であつて、同条の上告理由に当らない。

そして、原判決が、騒掻罪の成立要件として判示した「騒擾罪は、多衆が集合して暴行又は脅迫をなすによつて成立するが、その暴行又は脅迫は、集合した多衆の共同意思に出たものであり、いわば、集団そのものの暴行又は脅迫と認められる場合であることを要し、その多衆であるためには一地方における公共の平和、静謐を害するに足る暴行、脅迫をなすに適当な多人数であることを要する」旨の見解、並びに、右の共同意思に関して判示した「騒擾罪は、群集による集団犯罪であるから、その暴行又は脅迫は集合した多衆の共同意思に出たもの、いわば集団そのものの暴行又は脅迫と認められる場合であることを要するが、その多衆のすべての者が現実に暴行脅迫を行なうことは必要でなく、群衆の集団として暴行脅迫を加えるという認識のあることが必要なのである。この共同意思は、多衆の合同力を恃んで自ら暴行又は脅迫をなす意思ないしは多衆をしてこれをなさしめる意思と、かかる暴行又は脅迫に同意を表し、その合同力に加わる意思とに分たれ、集合した多衆が前者の意思を有する者と後者の意思を有する者とで構成されているときは、その多衆の共同意思があるものとなるのである。共同意思は、共謀ないし通謀と同意義でなく、すなわち、多衆全部間における意思の連絡ないし相互認識の交換までは必ずしもこれを必要とするものではない。事前の謀議、計画、一定の目的があることは必要でないし、また、当初からこの共同意思のあることは必要でなく、平穏に合法的に集合した群集が、中途から、かかる共同意思を生じた場合においても本罪の成立を妨げない」旨の見解については、当裁判所は、いずれも、これを正当として是認する。

そして、所論は、原判示の未必的共同意思について論難する。けれども、原判決は、論旨も指摘するように、未必的共同意思については、「事態の発展や相手方の出方如何により時と場合によつては更に暴行脅迫等の所為に出るかも知れず……その暴行脅迫の所為に出る者は多衆を恃んでなすもので、他の群集はこれに同調し少なくともこれを認容するという未必的共同暴行脅迫の意思」といつているだけで、その意義については、必ずしも明確に判示していないのである。しかし、元来騒擾罪の成立に必要な共同意思とは、多衆集合の結果惹起せられることのあり得べき多衆の合同力による暴行脅迫の事態の発生を予見しながら、あえて、騒擾行為に加担する意思があれば足りるのであつて、必ずしも確定的に具体的な個々の暴行脅迫の認識を要するものではないのであるから、原判決の未必的共同意思の判示は、この趣旨において首肯できないことはない。

ところで、原判決が挙示の証拠で適法に確定したところによれば、被告人金明福、同鈴木光雄、同佐々木贇、同松木佐吉、同鈴木磐夫、同日野定利、同熊田豊次、同金逢琴らは、判示騒擾に際し、多衆の威力を以つて本件掲示板問題に関する交渉を党側に有利に解決する意図の下に平市署側との交渉に当たる考えで、あるいは、午後三時三十分過ぎころ市署前において先着の群集と警察官とが衝突したことを知り判示時間ころ市署前に到り、あるいは、午後三時三十分ころ同署前において多衆が共同して暴行するのを認識しながらこれを共にする意思で自らも暴行をし又はこの多衆に参加して署前にとどまり、次いで、同被告人らはそのころ多衆の代表者らが署内に入り多衆の不法な威力を示し警察側を脅迫して交渉すること、および、多衆は右交渉を支援することにより右脅迫行為を共にすることを察知し、かつ、多衆が右交渉に際して共同して暴行脅迫に出るかもしれないと思いながらこれを共にする意思で、各自代表者の一人として他の代表者とともに右交渉に当たるため署内に立ち入り、午後五時半ころからは多衆が同署を不法に占拠することを知りながらこれを共にする意思をも持ち午後十一時過ぎころまで代表者の一人として本件の交渉に関与して署内に滞留し、あるいは、更らに判示のごとく脅迫その他の行為をして、以つて卒先助勢又は他人を指揮したというのであり、その余の被告人ら(但し被告人阿久津成正を除く)は、判示騒擾に際し、本件掲示板問題に関する交渉を支援するため、判示日時ころ平市署前に到り、あるいは、多衆が署前で判示のごとく共同して暴行するのを認識しながらこれを共にする意思でもしくはこれに同調して判示暴行をなし又はこの多衆に参加して署前にとどまり、次いで、そのころ代表者が署内に入り前示群集の暴行に因り畏怖する本田署長ら警察側に対し署内外の群集の不法な威力を示すことにより相手方をして応待のいかんではこの力によりいかなる危害が及ぶも測られないと畏怖せしめて交渉すること、および、群集は右交渉を支援することにより代表者と右脅迫行為を共にすることを察知しながら、右交渉を支援する趣旨で、あるいは、更に午後五時半ころからは多衆が同署を不法に占拠することを知りながらこれと共にする意思で署内外に滞留し、あるいは、署前で多衆と労働歌を合唱して交渉を支援する等以つて判示卒先助勢行為又は附和随行行為をしたというのである(なお、後記論旨第一二点について建物の不法占拠又は不法侵入が騒擾罪における暴行に当たる旨の判断参照)。されば、右被告人ら(被告人阿久津を除く)が、本件騒擾に際し、むしろ、あるいは、確定的な共同意思があつたことを看取するに難くはなく、少なくとも、いわゆる未必的共同意思があつたことは、明白であるといわなければならない。従つて、本件につき刑訴四一一条一号を適用すべきものとは認められない(但し、被告人阿久津成正は、銃砲等所持禁止令違反だけで処罰されたものであるから、同人に関する所論騒擾の共同意思についての法令違反の主張は、その前提を欠くものであつて、採るを得ない。)。

同第一一点について。

所論は、「公共の平和、静謐」なる観念につき独自の見解を有し、これを前提として、本件では、被告人らは公共の静謐を害したものではなく、却つて、警察がこれを害し、国民の憲法上の権利を侵害したとの主張をなすもので、結局原審の事実誤認を前提とする単なる法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当たるものとは認められない。

同第一二点について。

所論は、違憲をいう点もあるが、実質は、単なる法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。そして、当裁判所は、騒擾罪における暴行なる観念は、広義のものであつて、物に対する有形力の行使をも含むものと解するを相当とし、従つて、原判決が建物の不法占拠又は不法侵入を騒擾罪における暴行に当たるものとした判断を是認する。また、騒擾罪の成立要素である暴行、脅迫は、他の罪名に触れない程度のものであるをもつて足りるから、その暴行、脅迫が他の罪名に触れる場合には、その行為は一面騒擾罪を成立せしめると同時に他の罪名にも触れる旨の大審院判例(大正三年二月二十四日大審院判決、同判決録二〇輯一九五頁以下、大正十一年十二月十一日同院判決、同判例集一巻七四一頁以下参照)を支持するから、原判決が本件騒擾の点と建造物侵入の点とを一個の行為で二個の罪名にふれる場合として刑法五四条一項前段一〇条を適用したのは正当であると認める(なお、大正八年五月二十三日大審院判決、同判決録二五輯六七三頁以下参照)。

同第一三点について。

所論は、憲法一二条、九七条に基づく国民の抵抗権(革命権の一分肢)の行使なる独自の違法性阻却事由を前提として、原判決の違憲を主張するものであつて、その実質は、原判決の本件動機原因並びに平市署における暴行脅迫の程度及び共同意思の存在等に関する事実誤認、単なる法令違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当たるものとは認められない。

同第一四点について。

所論は、違憲をいうが、実質は、単なる訴訟法違反の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。そして、被告人佐々木贇に対する内郷町署における職務強要の事実は、、本来の起訴状中に簡略ながら記載され、その後第一審において許可された訴因罪名罰条追加請求書に公訴事実として詳細記載し、その罪名、罰条も明示されていることが記録上明らかであるから、公訴事実の同一性あることも明白である。されば、原審がこれにつき判決をしても所論の訴訟法違反は認められない。また、被告人八代一郎に対する本件公訴事実は、騒擾、建造物侵入のみであつて、職務強要の事実は存しない。されば、原判決は、同被告人に対しては、内郷町署における職務強要の訴因に関して所論の判示並びに判決をしていないから、同被告人に対する所論は、その前提を欠き採るを得ない。

被告人本人緑川富治外五十四名連名の上告趣意について。

所論は、違憲をいう点もあるが、実質は、事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。そして、原判決が所論のごとく平市署前における群衆側の所為には正当防衛をもつて目すべき余地が存しない旨、並びに、平市警察署を中心とする騒擾罪を認めたことその他原判決の事実認定は、挙示の証拠で肯認することができ、その事実認定に基づく法律判断もこれを是認することができるし、また、原判決の確定した事実関係の下においては、被告人らの所為をもつて憲法二五条、二一条、二八条等の権利行為を以つて目すべきものでないことは、当裁判所大法廷のしばしば判示したところである(憲法二五条に関し判例集二巻一〇号一二三五頁以下、憲法二一条、二八条に関しては弁護人の上告趣意第四点第二についての判断参照)。なお、判例違反をいうが、判例を具体的に示していないから、採用するに由ない。しかも、弁護人の上告趣意第三点について述べたとおり原審では、十回にわたる各公判期日ごとに全被告人に対して適式な召喚をなしており、かつ、全被告人の弁護人および出頭した被告人立合いの上証人十数名の尋問および三十数カ所の検証等の事実の取調べを行なつていることが記録上明白である。されば、本件につき刑訴四一一条一号は又三号を適用すべきものとは認められない。(なお、右連名の被告人本人中被告人阿久津成正、同鈴木吉雄の両名については、原判決は銃砲等所持禁止令違反の公訴事実だけで処罰したものであるから、騒擾についてのみの右上告趣意は、両名に関する上告適法の理由として採用することはできない。)。

被告人佐藤多美夫の上告趣意について。

所論は、違憲をいう点もあるが、実質は、事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。そして、原判決の確定した事実関係の下においては、被告人らの所為をもつて憲法二八条の権利行為を以つて目すべきものでないこと、並びに、原審が事実の取調べを行なつていることは、前示被告人本人連名の上告趣意について判示したところであり、また、憲法三七条の公平な裁判所の裁判とは、所論のごときものをいうものでないことは、当裁判所大法廷のしばしば判示したところである(例えば、判例集二巻五号五一一頁以下参照)。

被告人国分秋男の上告趣意について。

所論は、事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。なお、原裁判所は、被告人全員に対し各公判期日ごとに適式な召喚をなし、事実の取調べを行なつたことは、前示被告人本人連名の上告趣意について述べたとおりであつて、本件につき同四一一条一号、三号を適用すべきものとは思われない。

被告人遠藤弘、同清野誠助の各上告趣意について。

所論は、違憲をいうが、実質は、事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。また、本件につき原審が事実の取調べを行なつていること等、並びに、刑訴四一一条一号、三号を適用すべきものとは認められないことについては、前示連名の上告趣意について述べたとおりである。

被告人佐藤進の上告趣意について。

所論は、違憲をいうが、具体的理由を示していないから、上告適法の理由と認め難い。

被告人小野農武夫の上告趣意について。

所論は、事実誤認の主張に帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。また、記録を調べても、同四一一条三号を適用すべきものとも認められない。

被告人吉田和司の上告趣意について。

所論は、第一審判決をあくまで守るために上告するというのであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。

被告人桐生辰夫の上告趣意について。

所論は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。そして、原判決は、被告人を附和随行者として、罰金二、〇〇〇円に処したものであつて、所論のごとく卒先助勢者として懲役十月罰金二、〇〇〇円に処したものではない。されば、被告人は、結局原判決の罪名と科刑とを誤解したものであつて、論旨は採ることができない。

被告人杉原清の上告趣意について。

所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張を出でないものであつて、刑訴四〇五条の上告理由に当たらない。また、記録を調べても、同四一一条一号、三号を適用すべきものとも認められない。

よつて、刑訴四一四条、三九六条、一八一条一項但書(被告人柳沢勲、同梅沢信勝、同杉原清及び同八代一郎につき)に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

検察官村上朝一、同井本台吉及び中村哲夫公判出席

昭和三十五年十二月八日

最高裁判所第一小法廷

裁判長裁判官 斎 藤 悠 輔

裁判官 入 江 俊 郎

裁判官 下飯坂 潤 夫

裁判官 高 木 常 七

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