最高裁判所第一小法廷 昭和33年(あ)44号 判決 1958年12月25日
主文
原判決を破棄する。
本件を高松高等裁判所に差し戻す。
理由
高松高等検察庁検事長代理次席検事岡正毅の上告趣意第一点について。
原判決が、その判示三において、労働争議の本質、争議行為が正当であるか否かの基準等につき所論摘示のごとく判示したこと、並びに、その判示四において、本件各証拠を綜合して認められる事実として、昭和二十七年十一月七日午前十時より同十二時まで判示財田変電所における停電ストライキの争議行為に対し、四国電力会社側がこれに対抗して停電を拒否して送電を継続するため、同会社多度津支店の庶務課長阪上修造、同労務係長増田忠雄は臨時工員樽本善太郎、同小野健児と共に同日午前九時半頃同財田変電所に行き、阪上は会社側からの同変電所の器物に触れてはならない旨その他の記載をした業務命令書を読み上げた上、これを同所の掲示板に貼った後阪上及び増田は同日午前一〇時少し前判示配電盤前に立ち居るに対し、同日午前十時過被告人は同配電盤のオイルスイッチを切るため同盤に近づき同人等に対し「切りますよ」と言うと、同人等は切ってはいかんと言い阪上は右手で同スイッチのハンドルを握り左手で被告人の腰の辺を押し、被告人は一旦退いたが、また配電盤に近づき阪上、増田の隙を見て同人等が握っていた同ハンドルの先を掴んで引きしゃくって同スイッチを切ったこと、そこで阪上は、前示技術屋の樽本善太郎を呼び、樽本は早速同スイッチを入れたところ、被告人は、同午前十時十五分頃再び右配電盤前に行き、被告人が近づいて来たのを知って同配電盤の椅子に腰掛けていた阪上、増田が右スイッチのハンドルを守るため立ち上るや、被告人は、その椅子に掛けた上、阪上、増田が技術屋でないためスイッチ開閉装置であることを知らなかった同配電盤の前面下方にあったリレーのプランジャーを右両名の足下から手を延ばして押し上げてスイッチを切って屋外に出たこと、これに応じて被告人から指揮を受けていたいずれも四国電力株式会社多度津支店勤務員で電産労働組合員であった横山、中野、徳永、田村、安川の五名は、右配電盤の前に行き阪上が前示樽本を呼んで同スイッチを入れさせようとするのを防ぐため約五分間スクラムを組んだこと、および、被告人は、同日午前十時半頃屋外の南方の柱上開閉器の紐を引いてスイッチを切り、他の者が北方の柱上開閉器のスイッチを切り、同日午前十一時五十分頃までに及んだ旨の事実を認定したこと、および、原判決が、その判示五において、被告人の本件右各行為は、正当な争議行為であると判断したことは、いずれも、所論のとおりである。
そして、所論第一点、二、(3)掲記の朝日新聞西部本社の仮処分事件についての昭和二七年一〇月二二日最高裁判所大法廷判決(民事判例集六巻九号八五七頁以下)竝びに、昭和二三年(れ)一〇四九号同二五年一一月一五日大法廷判決(刑事判例集四巻一一号二二五七頁以下)が、「同盟罷業は、必然的に業務の正常な運営を阻害するものではあるが、その本質は、労働者が労働契約上負担する労務供給義務の不履行にあり、その手段方法は、労働者が団結してその持つ労働力を使用者に利用させないことにあるのであって、これに対し使用者側がその対抗手段の一種として自らなさんとする業務の遂行行為に対し暴行、脅迫をもってこれを妨害するがごとき行為はもちろん、不法に、使用者側の自由意思を抑圧し或はその財産に対する支配を阻止するような行為をすることは、許されないものといわなければならない旨」を判示していることが明らかである。そして、その趣旨は、その後昭和二七年(あ)四七九八号昭和三三年五月二八日大法廷判決(刑事判例集一二巻八号一六九四頁)においても判示するところである。ことに、後の判決は、右判示に引き続いて、「されば、労働争議に際し、使用者側の遂行しようとする業務行為を阻止するため執られた労働者側の威力行使の手段が、諸般の事情から見て正当な範囲を逸脱したものと認められる場合には、刑法上の威力による業務妨害の成立を妨げるものではない。」と判示しているのである。
従って原判決の判示は、労働争議の本質、争議行為が正当であるか否かの基準等についてなした前記判例の趣旨に違反するものであり、原判決の認定した前記の事実関係によれば、被告人の所為は、労働争議における労働者側の争議手段として正当な範囲を逸脱することも明白であるといわなければならない。にもかかわらず原判決が被告人の本件行為は、正当な争議行為であると判断したことは、違法であって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。されば、本論旨は結局その理由あるに帰し、原判決は刑訴四一〇条一項、四一一条一号により、すでにこの点において破棄を免れない。
よって、他の論旨に対する判断を省略し、刑訴四一三条本文に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)