最高裁判所第一小法廷 昭和33年(あ)478号 判決 1958年6月19日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人長崎祐三の上告趣意について。
所論は、単に刑法二五条の規定が憲法一四条に違反するというが、その趣旨とするところは、刑法二五条一項が執行猶予の言渡をすることのできる要件として一号、二号の条件を定めていることが憲法一四条一項に違反して無効であるから、同各号に該当しない者でも執行を猶予することを得るものと解すべきであると主張するものと解される。従って、仮りに所論が正しいとしても、刑法二五条の規定は任意規定であるから、同規定を適用しなかったことを非難するのは、裁量非難に帰し、上告適法の理由とならないものである。また、元来刑の執行を猶予すべきか否か、その執行猶予の要件をいかに定むべきかは、立法政策の問題であって、その要件に種々の異った条件を定めても、その差異が一般社会観念上合理的な根拠ある不均等に過ぎないものである限り、憲法一四条一項の平等の原則に反するものでないことは、当裁判所大法廷判例の趣旨とするところである(昭和二八年六月二四日大法廷判決判例集七巻六号一三六六頁以下、昭和二三年五月二六日大法廷判決判例集二巻五号五一七頁以下等参照)。されば、刑法二五条一項が、執行猶予の言渡をすることのできる条件として同項一号の初犯者又は同二号のこれに準すべき者とそうでない者との間に差異を設けたのは、行刑の実験則上合理的な根拠あること明白な事柄であるから、これをもって憲法一四条一項に反するものといえないこと多言を要しない。従って、原判決の判断は正当であって、同条項の解釈を誤ったものということもできない。それ故、所論は採るを得ない。
よって、刑訴四〇八条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)