最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)1077号 判決 1962年2月22日
主文
原判決中第一審判決添付物件表記載3、4、5の土地に関する部分を破棄し、右部分につき本件を大阪高等裁判所に差戻す。
理由
上告代理人十川寛之助の上告理由について。
所論は、原判決およびその是認した第一審判決が、馬場留吉の買収申請にかかる第一審判決添付物件表記載の3、4、5の各宅地に対する本件買収計画を違法であるとした点につき、甲第八号証に基づき昭和二三年度の事業税のみによつて、同人の営む農業と運送業とのいずれが主であるか副であるかを決めてしまうことは早計であり、乙第三号証によれば、同人の農業所得がはるかに運送業所得を上回つていることを知り得るにかかわらず、原審が、特段の事情を説示することなく、右乙第三号証にあらわれた事実を否定して、同人の主たる事業が運送業であるとした第一審判決の事実認定を是認したことは、理由不備ないし理由そごの違法があるというのである。
よつて按ずるに、自作農創設特別措置法(昭和二四年六月二〇日法律第二一五号、同日施行による改正後のもの)一五条二項一号は、附帯買収の申請人の主たる所得が農業以外の職業から得られている場合は附帯買収を許さない旨を定めており、この規定は前記昭和二四年法律第二一五号によつて改正されたものではあるが、改正前の買収についても同様に解すべきことは、当裁判所の判例の趣旨とするところである(昭和二六年(オ)第五五九号、同二八年七月七日第三小法廷判決、民集七巻七号八二六頁、同二六年(オ)第一二四号、同二八年一二月一八日第二小法廷判決、民集七巻一二号一四五六頁参照)。そして、前記規定中の、主たる所得が農業以外の職業から得られている場合というのは、特定の年において、たまたま農業以外の職業の所得が多かつたということを指すものではなく、継続的にみて、常態として農業以外の職業から得られる所得が主たるものと認め得る場合を指すものと解するを相当とするところ(本件は昭和二四年の買収計画に基づくものであるから、いずれが主たる所得であるかの判定は、買収計画樹立時である同年当時の状況を基準とすべきではあるが、その状況は、右に述べたように、継続的にみて常態として認め得ることが必要であるといわなければならない。)、乙第三号証によれば、昭和二三年および同二四年の前記馬場留吉の所得の状況は、農業所得が農業以外の事業所得より上回つていることは明らかであるから、たとえ同人がかなりの程度に運送業を営んでいたとしても、特段の事情の認められない限り、その主たる職業はなお農業であつたとするのが相当であると認められる。のみならず、原判決の是認した第一審判決挙示の甲第八号証は、昭和二三年度の事業税の納税証明書であるが、事業税は、個人については前年の所得を課税標準として賦課されるものであることは、右事業税賦課に適用された昭和二三年法律第一一〇号旧地方税法六五条一項の規定するところであつて、右証明書は、昭和二二年の所得の状況に関するものである。
しかるに、原判決は、右乙第三号証にあらわれた事実を否定して、これと相反する事実を認定するにつき、是認し得べき特段の事情を説示することなく、前記馬場留吉の運送業所得が農業所得よりも大であると認定した第一審判決を維持し、「乙第二ないし第四号証によつても、原審(第一審)がした事実認定にして当裁判所(原審)も同様に認定するところをくつがえすことができない。」と判示したことは、審理不尽、理由不備の違法あるを免れず、右の違法は原判決の結果に影響を及ぼすこと明らかであるから、論旨は結局理由あるに帰し、原判決中、馬場留吉の買収申請にかかる第一審判決添付物件表記載の3、4、5の各宅地に対する本件買収計画を取消した第一審判決に対する上告人の控訴を棄却した部分を破棄し、さらに審理を尽すため、右部分につき本件を原審に差戻すべきものとする。
よつて、民訴四〇七条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)