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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)188号 判決 1962年3月29日

主文

原判決中、被控訴人(上告人)のその余の請求を棄却する部分を破棄する。

被上告人が上告人に対し門司財務事務所昭和二六年三月一四日付徴税令書第一九五号をもつて上告人の原判決添付目録記載物件の所有権取得についてなした過年度追徴不動産取得税の賦課処分中金二十六万七千六百二十五円の部分を取消す。

被上告人の附帯上告を棄却する。

訴訟の総費用は、被上告人の負担とする。

理由

一  上告代理人山田思郎の上告理由について。

本件不動産取得税賦課当時の旧地方税法(昭和二三年法律第一一〇号)八八条は「不動産取得税は、不動産の取得に対し、その価格を基準として、不動産所在の道府県において、その取得者に、これを課する」と規定し、また本件に適用された福岡県税賦課徴収条例はその五八条においては「不動産取得税は不動産の取得当時の時価を課税標準としてこれを課する」と定めており、右地方税法および条例には、不動産取得税賦課の対象となる不動産の定義は、特に示されていない。しかし、民法八六条は動産、不動産の区別を定めた基本的な規定であつて、動産、不動産の観念は、特段の事由の認められない限り概ね右民法の法条に定められるところに従うものと解するを相当とし、前記地方税法および条例にいう不動産も、特段の事由の認むべきものがないから、右と同様に解すべく、この点に関する原判示は正当である。また、民法八六条一項にいう土地の定着物とは、土地の構成部分ではないが土地に附着せしめられ且つその土地に永続的に附着せしめられた状態において使用されることがその物の取引上の性質であるものをいうと解すべきことも原判示のとおりである。

ところで、原審の確定したところによれば、「本件石油タンクは鋼製丸型貯油施設であつて、その重量、容量はそれぞれ、一六〇、〇屯(容量五、〇〇〇竏)、一〇五、〇屯(容量三、六〇〇竏)、四五、〇屯(容量一、〇〇〇竏)、九、五屯(容量一〇〇竏)で、土地に砂を盛つて、その上にタンクを置いただけのものであるが、恰も巨大なるドラム缶を地上に置いたようなものであつて、その自重及び荷重により若干沈下」した状態であるというのである。

しかるに、原判決は以上のような事実認定をした後、更に続けて、本件タンクは「永続的に土地に接着せしめられた状態において使用されるものであることを認め得るからまさに定着物ということができる」と、判示しているのであるが、原審の前記事実認定にもあるとおり、本件タンクは、もともとドラム缶を地上に置いたようなものであつて、その自重、荷重によつて若干沈下したものであるから、本件タンクは、地上に置かれるものとして設計、製作されたものではあつても、一定の土地の上に永続的に固着せしめることによつてはじめてその効用を発揮するものとして作られたわけのものではなく、また、その土地に対する状態は、地上に附置されているに過ぎず、特別の基礎工事により土地に固着されたものではないから、未だもつてそれが土地に附着しているものとは、認め難く、従つて、本件タンクは民法八六条にいう土地の定着物には該当せず、前記地方税法および条例にいう不動産ではなく、これに対する本件不動産取得税の賦課処分は違法であつて、取消を免れない。しかるに、原判決は本件タンクを土地の定着物と認め、前記地方税法および条例にいう不動産に当るとしているのであつて、右原審の判断は、課税対象を誤つた点において判決に影響を及ぼすことの明らかな違法あるものというべく、論旨は結局理由あるに帰し、原判決中被控訴人(上告人)のその余の請求を棄却した部分(原判決主文第三項)は、その他の論旨について判断するまでもなく、これを破棄すべきものとする。そして、上告人の本訴請求を全部認容すべきことは、前叙説示によつて明らかであるから、右賦課処分のうち残余の金二六万七、六二五円の部分もこれを取り消すべきものとする。

二  附帯上告代理人堤千秋、同植田夏樹の上告理由について。

論旨は、本件タンクが不動産取得税の課税対象たる不動産に当ることを前提として、本件不動産取得税賦課処分の課税標準価格の算定に関する原判決の違法をいうのである。しかし、本件タンクが不動産取得税の課税対象たる不動産に当らないことは、すでに前記上告代理人山田思郎の上告理由に対する説示中に述べたとおりであるから、論旨は前提を欠くものであつて、採るを得ない。

三  よつて、民訴四〇八条、三九六条、三八四条、九六条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)

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