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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)35号 判決 1958年6月26日

主文

原判決中金員支払の請求を認容した部分及び訴訟費用の負担を命じた部分を破棄し事件を名古屋高等裁判所に差し戻す。

その余の部分に対する本件上告を棄却する。

理由

上告代理人弁護士島田新平の上告理由第一点について。

しかし、原判決はただ漫然と所論の如く判示しているのではなく原判示の上告人一家の総収入を以てすれば、判示のような解決策もないわけではないといつているのであり、しかく判断できないものでもないから原判決にはこの点所論理由不備の違法あるを見出し難い。そして、原判決は所論上告人一家の住居上の因難を十分考慮に入れつつ、しかもなお被上告人側の判示諸事情を参酌すれば、被上告人の解除権の行使は判示の限度において、有効のものと認めざるを得ないというのであつて、そのように判断したからといつて、上告人に通常人の生活上の堪忍の限度を超える忍苦を強い、上告人一家の最低限度の生活をおびやかしたものとは断じ難いから所論憲法上の論議はその前提を欠くばかりでなく、原判示のような事情であれば右のような解除権の行使が信義の原則に反する程上告人一家に破滅的打撃と痛苦を与えるものとも認められない。それ故、論旨はすべて理由がなく、採用できない。

同第二点について。

上告人が第一審以来所論弁済供託の事実を主張しかつこれを立証すべく乙第三ないし第二〇号証を提出していることは記録によつて明瞭であり、右乙号各証によれば、右抗弁事実が一応認め得られないこともない。してみれば、本件賃貸借が昭和三〇年七月一〇日まで本件家屋全部についてその後はその一部について各存続しているものと判断した原審としては上告人において、判示賃料債務(但し判示一部解約が効力を生じた以後の賃料が何程となるかを審理判断した上で)を右供託によつて免れているかどうかを当然に審理判断すべきであつたにも拘らず、原判決はこの点について毫も言及するところがなく、ただ漫然と昭和三〇年二月一日以降判示部分の明渡済まで一ケ月金二七〇〇円の割合による金員の支払を命じた第一審判決を維持したのは到底審理不尽理由不備の違法あるを免れない。それ故所論は理由あり原判決はこの点において一部破棄を免れないものと認める。

よつて、民訴四〇七条一項、三九六条、三八四条一項に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)

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