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最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)726号 判決 1960年2月11日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人木原鉄之助の上告理由第一点について。

原判決が、所論造作および本件宅地上に上告人の増築した建物等の買取請求に関し、何ら判断を示さなかつたことは、所論のとおりである。

しかし(一)債務不履行による解除によつて賃貸借が終了する場合には、賃借人は造作の買取請求権を有しないと解すべきであり(昭和三一年四月六日第二小法廷判決、集一〇巻四号三五六頁参照)、本件は原判決によれば上告人の債務不履行による解除によつて賃貸借が終了した場合に当るから所論判断の遺脱は原判決の結論に影響を及ぼさない。

また(二)原判決は所論増築部分は被上告人の旧建物に附合して被上告人の所有に帰したものであるというのであるから、たといそれが上告人の本件宅地上に増築したものであつてもそのために上告人に借地権の発生するいわれなく、従つて借地法の適用される余地もない。されば所論判断の遺脱は、原判決の結論に影響しないものというべくそれゆえ論旨は採用し得ない。

同第二点の一について。

しかし原判決は、所論畳、建具等までも民法二四二条の本文によつて被上告人の所有に帰したものとしているわけでないことは判文上おのずから明瞭であるから所論法令違背の主張はその前提を欠き採るを得ない。

同第二点の二について。

しかし原判決挙示の証拠と対照すれば、原判決は、所論増築部分を構造上独立の建物とは認めず、また独立建物としての経済上の効用をもつものとも認めなかつた趣旨と解されるから、所論違法は認められない。

同第三点について。

しかし所論のような場合に民法二四二条本文の規定を適用する為めに所論の点を裁判所において確めなければならないものではないから原判決には所論の違法ありというを得ず所論は採用できない。

同第四点について。

しかし判決においては、証拠排斥の理由をいちいち判示するの要なく、また、所論乙二号証三号証は所論主張を認めることができないこと明らかであるから、原判決が乙三号証その他によるも控訴人の該主張を肯認するに足りない旨判断したのは正当であつて所論の違法は認められない。

同第五点について。

しかし所論は結局原判決の認定した事実に副わない事実を主張し、それを前提として原判決に所論の違法ある如く主張するに帰するから採るを得ない。

同第六点について。

しかし所論証拠説明書の記載は原審で陳述された形跡がなく、同日付第四準備書面により原判決摘示の権利濫用の主張がなされているに過ぎないから原判決には所論判断の遺脱は認められない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)

《当事者》

上告人 中谷タマ

右訴訟代理人弁護士 木原鉄之助

被上告人 真部正雄

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