大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)890号 判決 1960年6月23日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人弁護士鳥巣新一の上告理由第一点について。

所論は採証法則違反をいうがひつきよう原審の専権に属する証拠の取捨選択事実認定を非難するに帰するものであつて、上告適法の理由となすを得ない。

同第二、三点について。

しかし、被上告人吉野は本件家屋の占有は不法でないと主張しており、原判決はこの主張を是認するに当り、被上告人吉野に判示転借権のあることを認定しているのであり、不法占有にならない事情としてこのような事実認定をすることは当事者の具体的な事実主張有無に拘わらず毫も差支ないものと解するを相当とすべく、そしてこの場合原審として右転借権に関し所論の点を釈明しなければならないわけのものではなく、また、上告人佐野は所論損害の発生を否認しており、これに対し原判決は右損害の発生しない理由として判示転借権の存在することを認定しているのであつて、この場合も原審として右転借権について所論釈明権を行使しなければならないわけのものではない。(なお、原判決認定のように家屋の所有権者たる賃貸人の地位と転借人たる地位とが同一人に帰した場合は民法六一三条一項の規定による転借人の賃貸人に対する直接の義務が混同により消滅するは別論として、当事者間に転貸借関係を消滅させる特別の合意が成立しない限りは転貸借関係は当然には消滅しないものと解するを相当とする。-昭和八年九月二九日大審院判例集一二巻二三八四頁以下参照)それ故、所論はすべて理由がなく、採用できない。

よつて、民訴三九六条、三八四条一項、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例