最高裁判所第一小法廷 昭和33年(オ)945号 判決 1959年6月11日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士三上啓二の上告理由について。
思うに、債権者は弁済受領の権限ある者の最たるものであるが、本事案におけるように債権者が甲乙二人ある場合に債務者との特段な合意を以てその中の一人例えば甲に弁済受領の権限を認めない趣旨の契約をすることは何ら妨げないものと解すべきである。しかしながら右のような特約があつたからといつて甲は債権者の地位を失うものではないから、債務者において甲に弁済した場合は債務者に右特約違反の問題の生ずる可能性のあることは別論として弁済そのものは民法四七九条の趣旨によりその効力を保持するものと解するを相当とする。然るに原判決によれば被上告人らは係争請負代金に相当する乙第七、八、九号証記載の金員を上告人とともに債権者である大熊信雄に弁済として手交したというのであるから、右大熊において所論特約により右弁済を受領する権限がなかつたとしても、右弁済は民法四七九条により有効に帰すべき筋合であること前段叙述のとおりであるから、右と同趣旨に出でたものと認められる原判決には右法条に違背する違法ありと云うを得ない。従つて所論は採用できない。
よつて民訴四〇一条、九五条、八九条に従い裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)