最高裁判所第一小法廷 昭和34年(オ)1049号 判決 1962年2月01日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士谷正男の上告理由第一点について。
原判決が所論1摘示のとおり判示したこと並びに民法七一八条一項但書の注意義務は所論2のごとく通常払うべき程度の注意義務を意味し、異常な事態に対処しうべき程度の注意義務まで課したものでないと解すべきことは、所論のとおりである。しかし、原判決の是認、引用する第一審判決は、本件グレートデン種の牝犬二頭は比較的性質が温順で、よく家族には馴れており、内一頭のリリーは被告が新宿区下落合に居住していた頃附近の学童に挑発され塀を飛び越えて追掛け一名に擦過傷を与えたこと、一般に犬はかん高い声をきらい本件二頭の犬もその例外ではないこと、右二頭の犬は本件事故当時判示のごとく大きくかつ力の強い犬であつたこと、並びに、かん高い声の衝撃によつて驚けば事故を起すこともあることが推認されこれに反する証拠がないこと(所論3の(2)ないし(4)の事実は原判決の認めなかつたところである)、および、訴外富田栄は判示のごとく小柄な男で、被告に雇われてから本件事故当日まで僅か半月を経過したばかりで、本件二頭の犬を取り扱つた期間も短く、まだ右犬の操作制御方法を会得していなかつたにもかかわらず、右二頭の犬を一緒に判示公道を運動させたため右犬が原告麗子に跳びついた際その力に負けてこれを制御することができなかつた等の事実を認定しているのであつて、その認定は挙示の証拠関係に照らしこれを肯認することができる。されば、原判決の所論判示は、通常の注意義務を認めた正当な判示であつて、所論の違法は認められない。
同第二点について。
しかし、原判決の是認、引用する第一審判決の事実認定は、挙示の証拠関係に照らしこれを肯認することができる。所論2の事実は、原審の認定しなかつたところである。されば、所論は、結局原審の適法になした証拠の取捨、判断ないし事実認定を非難し、所論の違法あるがごとく主張するに帰し、採ることができない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 高木常七)