最高裁判所第一小法廷 昭和35年(オ)70号 判決 1961年7月20日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士山田盛の上告理由一ないし四について。
債務金額に争ある債権につき債務者が債務全額の弁済であることを供託原因中に指摘して供託した場合債権者は供託金は債権の一部弁済であるとして受領する旨予め留保してこれを受領したときは、債権者が真実の債権額が供託金額を超えることを主張且つ立証して債務者に対し残額の弁済を請求することを妨げるものではなく、しかもこの場合その留保の意思表示が供託所に対してなされると供託者に対してなされるとでその効力に消長あるものと解すべきでないとした原判決の判断は、当裁判所もこれを正当として是認する。所論は縷々論説するが、すべて自己独自の法律論に座するもので、殊に供託受諾に留保を附することは許されないと解すべく、供託物受領の際になされた留保の意思表示は無効であつて、供託受諾は無留保のものと解すべきであるとする所見には到底賛同することができない。なお所論引用の判例の趣旨は右に反するものではなく、所論を維持する判例としては適切なものとは認められない。
それ故、所論は採用できない。
よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)