大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 昭和36年(オ)243号 判決 1964年1月23日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人らの負担とする。

理由

上告代理人鹿島寛、同岩武一寿の上告理由第一点について。

詐害行為取消訴訟の場合において、取消債権者は、他の債権者とともに弁済を受けるため、受益者、転得者(本件においては上告人大栄商事株式会社がこれに該当)に対し、直接にその受けた財産の引渡をなすべきことを請求し得るものと解するのが正当である(大審院判決、大正一〇年(オ)第二二五号、同年六月一八日、民録二七輯一一六八頁参照)。そして原判決の引用する第一審判決は、右と同趣旨の法律判断の下にその主文第四項のごとく判示したものであることは、判文自体から明らかである。それ故、原判決には所論の違法は認められず、所論は採るを得ない。

同第二点について。

原判決の引用する第一審判決は、被告(控訴人、上告人)大栄物産株式会社が被告(前同)桐山良一に対し昭和三一年一〇月二二日第一審判決別紙第二目録記載の物件(本件物件)を、同月二四日同第一目録記載の建物(本件建物)を売渡し、右桐山が被告大栄物産株式会社に対して負担する本件物件および本件建物の買受代金債務約一三〇万円を現実に支払うことなく、当時右両被告間において被告大栄物産株式会社が被告桐山に対して負担する約一八〇万円の借入金債務と対等額において相殺する旨の合意がなされたこと、その他判示の諸事情を認定した上、たとえ右各売買が既存債務弁済を目的としてなされたとしても、それは反証のない限り原告(被控訴人、被上告人)の本件手形債権を害するものと認むべきである旨判示しており、右判示は正当と認められる。また従来の大審院判例によるも、代物弁済や相殺が詐害行為となり得る場合のあることを判示しており(大審院判決、大正一〇年六月一八日、民録二七輯一一六八頁、同、昭和一六年二月一〇日、民集二〇巻七九頁参照)、原判決の前記判示が詐害行為取消に関する判例に反するものとは認められない。それ故、所論は採るを得ない。

よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条、九三条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤朔郎 裁判官 長部謹吾)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例