最高裁判所第一小法廷 昭和37年(さ)2号 判決 1962年6月14日
主文
原略式命令を破棄する。
本件公訴を棄却する。
理由
関係記録によれば、水戸簡易裁判所は昭和三六年八月三一日、被告人が昭和三六年七月七日午前八時頃勝田市武田地内道路において、法令に定められた後写鏡の装置がないため、交通の危険を生じさせるおそれがある第二種原動機付自転車を運転したものであるとの公訴事実を容認して、被告人に対し道路交通法六二条、一一九条一項五号罰金等臨時措置法二条、刑法一八条を適用し、被告人を罰金三、〇〇〇円(換刑処分、二〇〇円を一日)に処する旨の略式命令をなし、同年九月九日その謄本を被告人に送達したことおよび右略式命令は法定の期間内に、正式裁判の請求がなされることなく、同月二六日確定したことを認めることができる。
ところで、右道路交通法六二条は、車両等の使用者等が、道路運送車両法第三章の規定により定められた装置を備えていない車両等の運転することを禁じているものである。然るに道路運送車両法第三章中自動車の装置について規定した四一条は、「自動車は、左の各号に掲げる装置について、運輸省令で定める保安上の技術基準に適合するものでなければ、運行の用に供してはならない。」と定め、その一六号に後写鏡を掲げているのに反し、原動機付自転車の保安基準について規定した同四四条には、後写鏡については何らの定めがない。従って原動機付自転車については、後写鏡の装置はその必要がないものと解しなければならない。そうだとすると、本件公訴事実として起訴状に記載されている、被告人が後写鏡の装置のない第二種原動機付自転車を運転したということは、道路交通法六二条に違反するものではなく、同一一九条一項五号に該当せず、何ら罪とならないこと明らかであり、水戸簡易裁判所は刑訴三三九条二号により本件公訴を棄却すべきであったといわねばならない。されば、被告人の右所為につき道路交通法六二条、一一九条一項五号を適用して被告人を罰金三、〇〇〇円に処した原略式命令は、法令に違反しかつ被告人のために不利益であること明白である。
よって刑訴四五八条一号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高木常七 裁判官 入江俊郎 裁判官 下飯坂潤夫)